斜面の安定解析
制作:(株)東建ジオテック

1.斜面の安定解析とは
 道路や鉄道路線の建設,土地造成,ダムや堤防の建設においては切土や盛土により人工的な斜面がつくられる。これらの斜面が建設中や建設後において崩壊しないようにしなければならない。
 また,国土の狭い我が国では山岳地や丘稜地の自然斜面近くに建設物が多く存在し,斜面崩壊(がけ崩れ)の危険性を含んでいる。
 このような場合に,斜面の安定性を検討し,必要に応じて適切な対策を講じる必要があり,この時の検討手法として斜面の安定解析が用いられる。
 では斜面の安定解析とは何なのか?単純に言えば滑動力(すべろうとする力)と抵抗力の釣合いを定量化する方法である。いま,図1-1のような斜面上の剛体ブロックの力の釣合いを考えてみる。このブロックがすべるかどうかはブロックが下に落ちようとする成分(mg・sinθ)と接触面の摩擦抵抗(μ・mg・cosθ)の大小で決定する。この下に落ちようとする成分と接触面の摩擦抵抗の比が安全率(Fs)と呼ばれ,安定性を表す指標として使われている。
 安全率FsはFs=μ・mg・cosθ / mg・sinθで表され,1を下回るとすべりだす。このように,比率で示すことにより,「崩壊に至るまでどの程度余裕があるのか」,「安定を保つために対策が必要か」といった判断を下す。斜面の地盤工学的特性の全容を解明することは困難であるし,斜面の安定計算を実施するには様々な仮定をしないとならないため,これほど単純でないが,基本的な考えは同じである。
2.地盤の強度とは
 斜面の安定解析は地盤の破壊現象を扱うものなので,まず,地盤の強度を理解しておく必要がある。
 斜面が形成されると,その地盤中にはすべり破壊を起こす力(せん断応力τ)が発生する。と同時に斜面がすべり破壊しないように抵抗する力(せん断抵抗力)も発生する(図2-1参照)。このとき,せん断応力に抵抗する最大のせん断抵抗をせん断強さsといい,これが地盤の持つ強度を示す。
 図2-1のようすを室内で再現させるため,図2-2のような試験装置をつかって,一定の垂直荷重Pをかけたまません断力Sを加えて土をせん断破壊させる。いま,供試体の断面積をAとすると,垂直応力σ=P/A,せん断応力τ=S/Aである。Sを徐々に増加させると内部の釣合い状態が壊れて,せん断面に沿ってせん断破壊する。供試体の垂直荷重Pを変化させながら,破壊時の強度(最大せん断力=せん断強さ)を求めると,図2-3のような関係が得られる。図2-3の直線は破壊基準と呼ばれ,せん断強さsは以下の式で表される。
 この式はクーロンの式と呼ばれ,1779年にクーロンにより提案されたものである。また,上式のcとφを土の強度定数と呼び,斜面の安定解析に用いられる。
3.フェレニウス法による斜面安定解析
 斜面の安定解析式には様々なものが提案されているが,実際に使用されるのはここで紹介するフェレニウス法がほとんどである。この他に,ビショップ法やヤンブ法などの解析法もあるが,ごく特殊な場合のみに採用されているのが現状である。
 フェレニウス法はフェレニウスにより1927年に提案されたもので,簡便分割法とかスウェーデン法などとも呼ばれている。
 安定解析式での安全率(Fs)は以下のように表される。
フェレニウス法ではすべり土塊を図3-1のように,適当な細片(スライス)に分割し,スライスごとに滑動力と抵抗力を求め,最後に全体を集計して安全率を求める。
 ここで,滑動力は図3-1のように各スライスでの土塊重量 のすべり面方向への分力となるため,以下のように示される。
一方,抵抗力はすべりに抵抗するせん断強さで表され,式(2.1)のクーロン式をもとにして求められる。ここで,すべり面に垂直な応力は,W cosαであり,すべり面長をl (エル)とし,平均間隙水圧をu とすると,抵抗力は以下のように示される。
 したがって,これをすべてのスライスで集計して,式(3.1)にあてはめると,安全率Fsは以下のように示される。これがフェレニウス法と呼ばれるものである。

<引用文献>

粟津清蔵,安川郁夫,今西清志,立石義孝(2000):絵とき土質力学,オーム社