法面植栽工(植生工)                                          
                                               制作:日本植生(株)


1.概要

法面緑化工は,法面に植物を繁茂させることで,法面の保護を図る工法の総称です。法面を植物で覆うことにより,雨水による法面の浸食を防ぎ,風化を抑制することができます。
また,法面に周辺の自然環境と調和のとれた植生を成立させることで,自然環境や景観を保全することができます。さらに,木本植物を導入することによりCO2の吸収・固定効果が期待できることから,地球温暖化対策としても有効であるといえます。こうしたことから,生物多様性の保全と循環型社会の形成が求められる中,崖崩れ対策においても法面緑化工の積極的な適用が望まれます。

一方で,法面緑化工は,構造物のような力学的性能を有していないため,崩壊のおそれがある法面には,構造物による法面保護工を併用する必要があります。

法面緑化工は,植物を法面に導入する法面植栽工(以下,植生工)と,構造物等で植物の生育環境を整備する緑化基礎工からなります。法面の勾配が急な場合等,植生工を単独で施工できないときには,植生工と緑化基礎工を組み合わせて施工します。

 植生工には,種子を用いて植生を導入する播種工,切芝や苗木等を用いて植生を導入する植栽工の他に,森林表土利用工,自然進入促進工,資源循環型緑化工法等があります。


                    
                       -1 植生工の位置づけ


2.植生工の計画設計

1)計画設計の考え方

 植生工の計画設計に当たっては,まず法面の長期的な安定確保を第一に考えなくてはなりません。その上で,法面の立地条件や周辺環境を踏まえ,経済性や施工性,施工後の維持管理を考慮する必要があります。

また,植生工は,植物を取り扱う技術であることから,目標とする効果が発揮されるまでには時間を要する他,施工後の気象条件等によって成果が異なる点を留意する必要があります。

2)植生工の前提条件

 植生工の適用に当たり,施工条件や方法,導入する植物が次を満たしている必要があります。

─ 植物が充分に生育するまでの期間,植物の生育基盤が安定していること。

─ 導入する植物が施工地の環境条件に適合していること。

─ 緑化の目標に適合した植物が選定されていること。

─ 植物の発芽生育に適した時期に施工できること。

3)要求性能の設定

 植生工の計画設計に先立ち,施工目的や法面の立地条件に基づいた要求性能を設定します。植生工の要求性能には次が提案されています。

─ 安全性能 どの程度の法面保護効果(耐浸食性,保温性)が必要か。

─ 地域自然環境に関わる性能 周辺の自然環境に対しどのような配慮が必要か。

─ 美観・景観に関わる性能 どのようなレベルで周辺景観との調和を図るか。

─ 永続性に関わる性能 機能発揮までの期間,維持管理の可否等。

─ 環境負荷に関わる性能 リサイクル資材,天然素材,分解性素材の使用の要否等。

4)計画

 設定した要求性能を満足する植生工の施工方法を計画設計します。植生工の一般的な計画設計の手順を次に示します。

@ 環境立地条件の把握 地域の自然条件や法規制,地域の要請などの社会的条件を調査します。

A 環境保全水準の設定 周辺の自然環境に応じた保全水準を設定します。

B 緑化目標の設定 どのようなタイプの植物群落(草本群落,低木林等)の形成を目指すのかを設定します。

C 植物材料の選定 植物材料区分(外来緑化植物,在来緑化植物,地域性系統等)を選定し,法面の地質,勾配などと気象条件に適合した導入植物を選定します。

D 施工方法の選定 製品・工法の特性・適用範囲やこれまでの使用実績を踏まえて,施工方法を選定します。

3.調査技術

 植生工の計画設計のために,必要に応じて次の調査を行います。

1)周辺環境の調査 

対象法面と周辺環境との調和を図るために,周辺植生を調査します。調査の方法には,ブラウン・ブランケによる植物社会学的方法が広く用いられています。また大型動物の生息状況についても調査し,移動経路として利用される場合は,植生による連続性の確保を検討します。また,シカなどの食害が予想される場合は,対策工の併用を検討します。

2)気象の調査

─ 降水量 年間降水量と施工時期の降雨条件に適した植生工を選定する必要があります。

─ 気温 最高気温が30℃以上となる時期の施工は避けて,施工時期を設定することが望まれます。

─ 積雪 凍上や積雪による侵食を受けやすいことから,保温機能に優れた施工方法の適用を検討します。

3)植物材料の市場調査

国内産(または地域産)の苗木の使用が予想される場合は,市場で入手可能な種類と数量をあらかじめ調査して,設計時の検討資料とすることが望まれます。

4)造成時点の法面調査

─ 勾配 切土法面では1割(45°)より急な勾配を目安に緑化基礎工との併用を検討します。

─ 土壌硬度 土壌硬度の測定には,山中式土壌硬度計(写真-1が広く用いられます。山中式土壌硬度計は,長さ20cmの試験器で,コーン形状の先端を土壌に押し込むことで,その抵抗値を内蔵するバネの縮む長さで測定するものです。一般的に粘性土で23mm,砂質土で27mmを超えると,植物の生育が困難となるため,法面植栽工の導入には何らかの対策が必要となります。

─ 土壌酸度 土壌酸度の測定は,採取した土壌を蒸留水に浸漬し,これをガラス電極式pH計(写真-2)で測定する方法で行われます。一般的に土壌酸度がpH48の範囲から外れる場合には,中和処理等の対策が必要となります。泥岩や頁岩の風化土や火山・温泉地帯等では土壌酸度が酸性を示す場合があります。また,セメントや石灰系の改良材を用いた盛土法面では,アルカリ性を示す場合があります。

─ 湧水・集水の有無 湧水個所や水の集まる個所は排水処理を検討します。

  

     写真-1 土壌硬度の測定      写真-2 土壌酸度の測定

4.植生工の種類と特徴

1)播種工

 播種工は種子を用いて植物を導入する工法です。材料を専用の機械で法面に吹付ける種子散布工や植生機材吹付工と人力で種子のついた製品を法面に張り付ける植生シート工や植生マット工・植生基材マット工等があります。

@ 植生基材吹付工

金網等を張り付けた上に,モルタルガンを用いて有機質系基盤材(種子・肥料入り)を緑化目標や適用条件に応じて厚さ310cmに吹き付ける方法です(写真-3)。使用する材料により耐浸食性が異なります。


写真-3 植生基材吹付工

A 植生シート工
種子,肥料等を装着したシート状の製品を法面全面に張り付ける方法です(写真-4)。主に盛土法面の緑化に使用します。粘性土では土壌硬度23mm以下,砂質土では27mm以下に適用します。

写真-4 植生シート工

B 植生マット工

種子,肥料等を直接付けたネット(合成繊維,ヤシ繊維等)に間隔をもたせて肥料袋を装着した製品を法面全体に展開し,アンカーピンや止め釘等で固定する方法です(写真-5)。一般的には,1:0.8より緩い勾配の土砂の切土法面に用います。粘性土では土壌硬度23mm以下,砂質土では27mm以下に適用します。

写真-5 植生マット工

C 植生基材マット工
植生基材マットを法面全体に展開し,アンカーピンや止め釘等で固定する方法です。植生基材マットは,ネット(合成繊維,ヤシ繊維等)に種子,肥料,植生基材等を封入した基材袋を間隔詰めて装着した厚みのあるマット状の製品(写真-6)で,岩盤の切土法面等,植生マット工では緑化が困難な法面に用います。
 設計に当たっては,施工実績や試験結果を参考に適用条件にあった製品を選定することが重要です。



 写真-6 植生基材マット工


2)植栽工

 植栽工には,切芝等の草本類を用いる場合と,苗木を用いて木本類を導入する場合があります。1割(45°)より急な勾配では,単独での植栽が困難なため,緑化基礎工を併用することが一般的です。

@ 張芝工

切芝やロール芝を法面の全面に張り付ける方法で,造園的な修景効果が求められる場合に使用します(写真-7)。近年は,施工が容易な大型のロール芝が流通しており,大規模な造成地等で用いられています。



写真-7 張芝工

A 樹木植栽工

法面に樹木を植栽して緑化する方法で,他の植生工と併用することもあります(写真-8)。法面に植穴を掘削して植え付けたり,編柵を設けて客土をして植栽する方法などがあります。樹木が生長することを考慮し交通視距の確保できるような配植とします。

写真-8 樹木植栽工


3)その他の植生工

@ 森林表土利用工

現地の森林表土を利用して緑化を図る方法で,@ 植生基材に表土を混合して吹き付ける方法(写真-9),A 編柵を設けて表土を設置する方法,B 土のうなどに充填して設置する方法,C 森林表土を充填した植生マットを使用する方法等があります。播種工に比べて緑化に時間を要しますが,地域外から植物を持ち込むことがないため,現地の植物による緑化が可能です。


写真-9 森林表土利用工

A 自然進入促進工

植物を用いずに生育基盤のみを造成することにより,周辺からの種子の飛来・定着を促す方法です。肥料袋を装着したネット系の資材を全面に張り付ける方法(写真-10)と,種子を入れない植生基材を吹き付ける方法があります。地域外から植物を持ち込むことがないため,現地の植物による緑化が可能です。播種工に比べて緑化に時間を要するため,特に植生基材を吹き付ける方法では,耐侵食性が長期間に渡り保持できる材料を用いる必要があります。



写真-10 自然侵入促進工

B 資源循環型緑化工法

現地や周辺地域等で発生した廃棄物等を循環資源として加工し,法面緑化工の主材料として活用する植生工の総称です。

主材料として生チップ(写真-11),堆肥化されたチップ,発酵汚泥コンポスト等が使用されています。使用する原材料は,廃棄物処理法等の関連法規を遵守して,適正に取り扱う必要があります。



写真-11 資源循環型緑化工法

参考文献
1)  社団法人日本道路協会編,道路土工─切土工・斜面安定工指針(平成21年度版),20092)  社団法人全国特定法面保護協会編,のり面緑化工の手引き,山海堂,20063)  国土環境緑化協会,環境緑化製品工法の設計・施工手引き(案),2009