斜面変状調査(レーザー計測)
制作:日本工営(株)

1. 調査の概要

 斜面災害を避けるためには、危険斜面を的確に把握する必要がある。そのためには、広範囲にわたって斜面の特性を詳細に調査する必要がある。
この調査方法のひとつとして、最近ではレーザースキャナー技術を利用した地形計測が使用されるようになってきた。
レーザー計測により作成された地形図は、従来の航空写真では植生のため検出できなかった表層の微地形を明確に把握することが可能となり、小規模の崩壊地や岩盤すべりや緩み等これまで抽出が不可能であった地形を抽出することが可能となる。

2.レーザー計測による地形図作成方法

 レーザー計測とは航空機(ヘリコプター等)から地上に向けてレーザーを照射し、地上から反射してくるレーザーの時間差を計測し、地物の高さを測定するものである。
航空機の空間位置は地上のGPS基準局と航空機に搭載したGPS/IMU(ジャイロ)により正確な位置を把握する。高密度でレーザーを照射し、地形地物補正を行うことにより、樹木や建築物などの地表の被覆物の影響を排除することが可能となる。
 作成される図面の精度については、計測高度や計測密度によって変わるが、ヘリコプター等による低空での計測では数十センチ間隔のオーダーで等高線図の作成が可能である。
 レーザー計測は先に述べたように被覆物の影響を排除することが可能であるが、計測時期としてはやはり植生の影響の少ない冬期に実施することが望ましい。
 植生の影響を受けにくいとは言っても、小規模な陥没地形等の凹地は現地での確認がなければ地形地物補正時に植生と地表面との区別が困難であり、地形として表現できない可能性が高い。このため、詳細調査時の現地調査で確認することが重要である。

3.調査方法
 
 作成された地形図は、一次地形として遷急線と遷緩線を抽出し、またその組み合わせによって二次地形として滑落崖状地形、緩斜面等を判読する。またこの組み合わせによって不安定斜面を抽出する。
 最近では、地すべりの前段階である斜面の重力変形(クリープ)を示す緩み斜面の存在が指摘されている。この場合、明瞭な滑落崖状地形が存在しない場合があり、注意する必要がある
 また抽出された不安定斜面は、あくまで地形からのものであるため、詳細調査にあたっては地質等も考慮し優先順位をつける。

4.調査結果の利用方法

 道路やダム貯水池斜面のように広範囲にわたって斜面の判定を行う場合に維持管理の観点も含めてレーザー計測を利用することが有効である。作成された地形図で抽出された不安定斜面については、優先順位に基づいて詳細調査や対策も含めた維持管理の基礎データとして利用可能である。
 また、レーザー計測は、航測による垂直方向の計測だけでなく、地上から水平方向にレーザーを照査することも可能であり、斜面内に立ち入りが困難で実測が不可能な大規模な岩盤斜面や崩壊地等の測量にも利用され、平面図や立面図が作成できる。
 レーザー計測は、地形図だけでなく陰影図等(標高や斜面勾配を色の濃淡で表した図面)も作成可能であり、地形図よりも斜面状況の把握に容易である。
 たとえば、奈良県の大滝ダム(国土交通省近畿地方整備局)では、レーザー計測によって貯水池内斜面における緩みも含めた不安定斜面の抽出を実施しており、図3に示すように陰影図においても緩み斜面の特徴である多段の段差地形(色が濃くひだのように見える部分)が捉えられている。(紀の川ダム統合管理事務所HP引用)

参考文献

1)千木良雅弘・八木浩司・古谷尊彦(2003):レーザースキャナを用いた崩壊危険斜面抽出技術,第42回日本地すべり学会研究発表会講演集,pp.261-264
2) 斎藤義之・古木宏和・山下亜樹・守隨治雄・西田 明・脇坂安彦(2004):レーザープロファイラーを用いた落石調査,第43回日本地すべり学会研究発表会講演集,pp391-394