電磁探査
制作:(株)日さく

(1)電磁探査の概要説明
 電磁探査法は、広義の電気探査法に含まれる物理探査手法であり、このうち地層の電磁誘導現象を利用した物理探査手法を表している。なお、電磁波が地中を伝わる時間から地下構造等を推定する地中レーダ法は、ここでは言及しないものとする。
地表付近または空中において人為的に発生させた(あるいは自然現象で発生した)電磁波が地下へ透過すると、それの電磁気的作用により地層中に誘導電流が生ずる。電磁探査法では、この誘導電流を地表にて直接測定するか、あるいは誘導電流により発生 した二次の電磁場電場と(磁場を地場)を地表にて測定し、地下の比抵情報を得るように工夫された物理探査手法である。


  
                            

              1 電磁探査法概念図1)

1)信号源による分類
 電磁探査法をその信号源から分類すると、送信機を使用し人工的な信号源から電磁波を発射(放射)して大地の電磁気的な応答を測定する能動的手法と、太陽活動や地球の電離層活動または雷放電現象に起因した自然発生的な信号源による大地の電磁気的な応答を測定する受動的手法に、大きく区分されている。
2)周波数領域探査法と時間領域探査法
 電磁探査法は、測定される信号の成分により大きく2つに分類され、周波数領域探査法と時間領域探査法に区分される。
 周波数領域探査法では、測定する信号をいろいろな周波数に分け、その各々の周波数における信号の強度や位相の変化などを測定する探査手法である。一方、時間領域探査法では、ある時刻(例えば送信開始時刻)以降における受信信号の強度変化などを、時間経過に沿って測定する探査手法である。

 周波数領域の代表的な探査手法としては、探査チーム自らが人工信号源を発射する手法に含まれるCSAMT(CSMT)法やEM法等と、他の目的で発射されている人工信号源を流用する手法に含まれるVLF法やPLMT法等が、代表的な探査手法となっている。その他、自然界の電磁波を利用するMT法や地電流法等がある。一方、時間領域の代表的な探査手法としては、人工信号源を用いたTEM(TDEM)法がよく知られている。
 電磁探査法には、測定する電磁場の成分や方向・周波数の範囲・電極やアンテナの配置方法・解析手法により各種の探査法の呼称があるが、ここではそれらのうち代表的な探査手法について、その概要を記載する。

(2)各種電磁探査法の説明
 1)CSAMT(CSMT)
 CSAMT(CSMT)法は、送信源と受信機を410km離し、送信側において1Hz〜数kHzの交流電流により電磁波を発生させ、受信側においてこの電磁波による電位変動と磁場変動を観測する探査手法である。電位変動は送信源と平行な方向に2050m間隔で設置した電極間の電位を観測し、磁場変動は送信源と垂直な方向で水平に置いたコイル(磁場
センサー)により観測を行う。
 電位と磁場の観測結果から各測点における測定周波数毎の見掛比抵抗値を求め、さらに次元解析により地下の比抵抗構造を水平多層構造として求める。また、各測点相互間の比抵抗関係を考慮した2次元断面解析を行う場合もある。 なお、比抵抗の高い岩盤が地表付近まで分布していることが予想される場合は、ニアフィールド現象を避けるため、探査に支障が無い範囲内で、できるだけ送信源を遠方に配置する。この探査手法では深度数から1,000mを超えるような大深度探査が可能である。

   

                         図2 CSAMT法探査概念

     

 TEM(TDEM)法は、送信源で電流を周期的に断続させ、受信側で測点に設置したコイルやループを用いて電流切断時における磁場の減衰状況を観測する探査手法である。送信源には、探査深度が数度までの場合はループを用い、これより大深度の場合には電気バイポールが用いられている。受信側の磁場センサーには、 通常コイルを鉛直に設置するが、断層調査の場合には水平に設置する場合がある。また、コイルの代わりにループを用いる場合もある。一般に、この探査手法では、電流切断後の経過時間が長いほど(受信信号は微弱となるが)探査深度は大となる。
 磁場の観測結果から各測点における電流切断後の各時刻における見掛比抵抗値を求め、1次元解析により地下の比抵抗構造を水平多層構造として求める。また、各測点相互間の比抵抗関係を考慮した2次元断面解析を行う場合もある。この探査手法では、送信ループ(または電気バイポール)と受信磁場センサーの組み合わせ方法が数多く研究開発されており、探査目的に沿って探査手法を選択する必要がある。
  

                       3 TEM法探査概念図

 3)空中電磁法(AEM法・HEM)
電磁法は、探査手法から分類すればEM(電磁)法に含まれるループ・ループ法の手法を用いた探査手法であり、探査名の>法・HEM法とは空中のまたは)EM法という意味を表している。 この探査法では、送信コイルと受信コイルを収納した架台バードと呼ぶを航空機やヘリコプターに搭載し、一定速度かつ一定高度で空中を飛行して、あらかじめ設定された時間間隔で電磁波を送信し、それと同じ周波数の電磁波を受信コイルで観測することにより各測点の探査を行う。探査にあたっては、送信用と受信用のコイルを組み合わせた装置をバード内に格納し、数種類の周波数により同時測定を行う。
 空中電磁法では、各測点における各周波数の見掛比抵抗値から、水平2層構造を求める1次元解析を行う。この探査方法では通常ヘリコプターを用い、バードの地上高を3060mに保ち、対地速度3080km/hで空中を飛行しながら連続的に探査を行う。

     
  

                     4 空中電磁法探査概念図

(3)電磁探査実施上の留意点

電磁探査を計画・実施する上での主な留意点について、以下に挙げることにする。
a)電磁探査法は、低比抵抗の地質構造(例えば帯水層・粘土層・断層破砕帯・変質帯)に対する感度が高く、  検出能力に優れるといわれている。
b)電磁探査法による探査深度は、使用する探査システムや探査に用いる周波数、送信源の出力 (電流や
電圧)や地盤の比抵抗値の高低などにより一概には規定できないが、CSAMT法では1,000m、TEM法では
電気バイポール送信源の場合200〜1,500m・ループ送信源の場合10〜500、 空中電磁探査では10〜100mが目安とされる。
c)TEM法以外の電磁探査法では、使用する周波数が低くなるほど探査深度が深くなり、 TEM法で は電流切断後の経過時間が長いほど探査深度が深くなる。
d)電磁探査法では、探査深度が深くなるほど分解能や解析精度は低下する。
e)電磁探査法では、高圧電線・電線・電話線・発変電所・無線中継所・工場などから 発生する電磁的なノイズの影響を受け易く、市街地やその近傍の探査は困難な場合が多い。
f)CSAMT法では、地下浅部から花崗岩などの緻密で高比抵抗な岩体が分布していた場合、ニアフィールド現象と呼ばれる妨害現象が現れ、深部探査が不可能となる場合がある。
g)CSAMT法やTEM法では、送信電極に対し高圧・大電流を流すことがあるため、電極周囲に簡易柵を設けることや人が近づかない場所に電極を設置するなど、安全対策を講ずることが必要な場合がある

(4)電磁探査結果の利用方法及び利用上の留意点
 空中電磁法は、深度100m程度までの水平方向の比抵抗変化を探査する手法であり、地質境界・断層・破砕帯・変質帯・すべり面・地下水賦存などの把握に利用されている。一方、CSAMT法やTEM法は、各測点下における深度1,000m程度までの比抵抗値を探査する手法であり、地熱開発・温泉探査・大規模構造調査・学術調査などに利用されている。


 
                          

5 CSAMT法による比抵抗断面2次元解析例1)

(5)引用文献

1)物理探査学会(2000):物理探査適用の手引き(とくに土木分野への利用)