画像解析
制作:国際航業(株)

1. 技術の概要
 画像を用いた斜面災害の調査・解析においては、衛星画像や空中写真画像が用いられる事が多い。これらは、広範囲を短時間で撮影可能であるという特徴を生かし、災害初期段階の広域にわたる状況把握においては特に効果的な情報と言える。
 また、斜面災害による被害を防止するためには、予め災害発生危険性の高い箇所を推定することが重要である。このために、衛星画像や空中写真画像から得られる地表面情報とともに、標高や斜面傾斜・起伏量に代表される地形情報、さらに地質情報などの各種情報を組み合わせ、実際の災害発生状況を考慮する事により、統計的に解析した手法1)2)などが実施されている。

2. 衛星画像等を用いた災害状況の把握事例
 (1) 高分解能衛星による斜面災害状況の把握
 1999年以降、地上分解能1m前後の高分解能衛星画像が入手可能となり、衛星画像からでも詳細な地表面状況の把握が可能となっている(表1には代表的な衛星画像の諸元を示す)。これらの衛星画像は、空中写真と同様に詳細な情報が得られる場合があり、災害情報把握において利用される場面も多い。
表1 代表的な衛星の諸元
 図1は、平成16年10月23日に発生した新潟県中越地震翌日に撮影された人工衛星IKONOSの画像であり、IKONOSと同日に撮影された空中写真を併用して災害状況把握を行った結果の一部を示したものである。この画像から、崖崩れや地すべりなどは、河川東側の丘陵地全体に多数発生しているが、画像東端部の北北東〜南南西方向にのびる範囲内に特に集中している様子が分かる。
 図2には、地震前後に撮影された地すべり地のIKONOS拡大画像(図1のCを拡大)を示す。高高度から撮影された衛星画像であるため、航空写真よりも歪の少ない画像で比較することが容易である。また、オーダー撮影を行っていなくても、災害前の画像がライブラリーとして存在している可能性が高く、災害前の微地形判読などに有効に活用することができる。
 このように、大規模な災害状況を把握する場合、広範囲に渡る地表面状況が撮影可能な人工衛星画像や空中写真画像が効果的であり、迅速な状況把握や災害発生後の詳細な調査において有益な資料となる。
 (2) 合成開口レーダ(SAR)による大規模地すべりの把握
 合成開口レーダは、地表に向けて斜めに電波を放射し、戻ってきた電波を捉えることで地表面の状態を画像にしている。合成開口レーダなどの電波センサは、雲の影響を受けることなく地表面を観測する事が可能である。このため、前述のIKONOS等の光学センサと異なり、天候や昼夜に関係なくデータを取得する事が可能である。
 合成開口レーダ画像では、地表面が凹凸のない水面やアスファルト面などの場合、電波がアンテナ方向に戻らず画像は暗くなり、一方、森林や市街地などの凹凸が多い場合、放射された電波の一部がアンテナ方向に返るため、画像が明るくなるという特性がある(図3)。
 この特性を利用して、宇宙開発研究開発機構では、2006年2月17日にフィリピン・レイテ島で発生した大規模地すべり発生地を把握している(図4)。この画像では、1996年2月2日の「ふよう1号」による観測画像に青と緑色を、2006年2月24日の「だいち」による観測画像に赤色を割り付けてカラー合成し、1996年よりも明るくなったところが赤く発色するようになっている。これによって、図中の黄色枠部分が大規模地すべり地として抽出されている4)。
 (3) 干渉合成開口レーダー(InSAR)
 前項では2時期の合成開口レーダ画像を重ね合わせて地すべり地を抽出した事例を紹介したが、合成開口レーダ画像を利用した地殻変動抽出手法として、干渉合成開口レーダ(Interferometric SAR: InSAR)を用いられる事も多い。InSARでは、同じ場所を撮影したわずかに異なる位置から撮影した2枚以上の合成開口レーダ画像を用い、衛星アンテナ位置から計測対象点までの距離の相違に基づく位相差を取得する事で、その位置の標高を算出する。さらに、あらかじめ対象地域の標高データがある場合、InSARによって得られた標高と既存の標高データの差分を取る事によって、地形等の変化を計測する事ができる。また、2組のInSARによって算出された標高データの差分によっても、同様の計測を行うことが出来る。これらを差分干渉SAR(Differential interferometric SAR:D-InSAR)といい、衛星画像では地すべり地よりも広範囲を対象とする地震や火山活動に伴う地殻変動抽出等に適用性が高い。
 図5には、1998年9月3日に発生した地震前からの岩手山周辺における干渉SAR画像を示す。左列は活動が少ない時期であり、右列は地震発生前後の干渉SAR画像である、岩手山西側で大きな変位を示しており、岩手山の火山活動活発化とともに山体西側の地下で流体だまりの体積が増加し、その体積増加による応力変化によって地震が引き起こされたと推定されている5)
3.衛星画像や地形情報を用いた災害危険度推定事例
 前項の事例は、衛星画像自体を主体とした処理・解析事例であるが、斜面災害を防止する上では災害危険性の高い地域を推定する事も重要である。このために、各種素因情報を用いた統計的解析手法が利用されている。
 この方法は、地すべりなどの災害発生要因として、衛星画像等から得られる植生情報や人工改変などに加え、現在の地形条件や地質条件を考慮する事で、より総合的に災害地域を解析し、災害に対する危険度を推定する事を目的としている。図6には災害危険度推定の流れの概要を示す。この内、航空機などに搭載したレーザスキャナデータから得られる標高情報を加工する事で解析的に把握出来る情報も多く、リモートセンシング技術の利用が図られている。
 また、図7には地すべり地の活動域評価結果の例6)を示す。このようにリモートセンシングで得られる情報や現地調査などを組み合わせる事により、広範囲における危険度を客観的に評価する事が重要と考えられる。
4. 今後の課題
 高分解能衛星や合成開口レーダ、航空機搭載型レーザスキャナなど種々のセンサを用いて、地表面の状態を広範囲の画像として取得することが可能となってきた。今後は、同一センサで取得した画像の自動比較解析による変化箇所の自動抽出や異なるセンサで取得した画像の総合比較解析による不安定箇所の高精度抽出などが課題である。
 また、画像解析によって様々な不安定箇所の把握・評価が試みられているが、(独)土木研究所においても土砂災害軽減に向けた課題の一つとして、豪雨や地震に対する土砂災害危険度予測手法の開発が取り上げられている7)
今後の研究開発により、より的確な危険箇所の絞り込み(相対評価)や発生時期の絞り込み手法確立、生産・流出土砂量の変化の予測手法確立が期待される。

【参考文献】
1) 例えば 大林成行・小島尚人:平成17年度国土情報工学研究会報告
2) 例えば 太田岳洋・木谷日出男:数値標高モデルを用いた災害地形評価, 鉄道総研報告, Vol.17, No.8, 2003.8
3) 国際航業株式会社HP http://www.kkc.co.jp/social/disaster/200410_niigata_eq/index.html
4) 古田竜一・島田政信:陸域観測技術衛星だいち(ALOS)による2006年2月17日発生フィリピン・レイテ島地すべり緊急観測, RESTEC, 57号, 平成18年7月
5) Nishimura, T., S. Fujiwara, M. Murakami, M. Tobita, H. Nakagawa, T. Sagiya, and T. Tada(2001):The M6.1 Earthquake triggered by volcanic inflation of Iwate volcano, northern Japan, observed by satellite radar interferometry, Geophysical Research Letters, 28, 635-638
6) 大林成行:最新実務者のためのリモートセンシング, (株)フジテクノシステム
7) 平成17年度国土交通省先端技術フォーラムの結果について