融雪量推定手法
制作:(株)興 和

◎ 融雪量推定手法
 融雪量を推定する手法は、水文調査の一環として直接的に各種計測器で得たデータに基づいて推定する手法と、アメダスデータなど既往の気象資料を活用して推定する手法とに大別できる。ここでは後者を中心に一般に実施されている推定手法を紹介する。

(1) 雪面低下法
 雪面低下法は雪尺や積雪深計で観測した積雪深の変化から積雪表層で発生した水量を推定し、一日当たりの融雪量を算定する方法である。
 一日の融雪量の算定には、積雪深の変化が融雪だけに起こるとし以下となる1)
        1日のおよその融雪量=ΔH・ρs(cal・p-2・day-1)
             ここにΔH:一日の雪面低下量 ρs:ΔHまでの平均密度
 また、雪の見かけ密度は以下の値が目安としてあげられている1)
        新雪約0.1g/p3   しまり雪0.3 g/p3   ざらめ雪0.3〜0.5 g/p3
  但し、松浦9)によれば、本手法は積雪の堆積過程における圧密作用によって正確な値は期待できず、この方法が合理的に採用できるのは積雪比重が0.5〜0.55と一定になる融雪期に限られると指摘している。

(2) 熱収支法
積雪の表面では日射量・雪による反射光量、大気放射、長波長放射を含む放射収支量・気温・水蒸気圧・風向風速・雪面温度・積雪温度・雪密度等の様々なファクターによって熱交換が行われつつ融雪が進行する(図-1参考9))。熱収支法は、これらの熱収支を評価し、融雪熱量から融雪量を推定する方法である。
 一般に融雪期では積雪表層での日射や気温等によるエネルギー交換量が卓越するので地中熱量等による積雪底面での融雪や雪温の変化に伴う伝導熱等は無視して良いとされている8)
 従って次式となる。
   QRS+QRL+QA+QE+Qr=QM
     QRS+QRL=QR:短波放射収支量+長波放射収支量=放射収支量
        QA:顕熱フラックス
        QE:潜熱フラックス
        Qr:雨による熱量
        QM:融雪熱量
 既往の実測例によれば、一般的な放射収支量(QR)は全熱収入量に対して60〜80%を占めるとされるものの、風速10m/s程度の夜間山頂では平地に比べで顕熱・潜熱伝達は8倍を越え、融雪熱量は6倍強となる1)ともされている。また、森林は融雪に対して調節作用を持ち、その程度は木の種類と林の密度で異なる1)ともされている。従って、気象の地域性を加味しなければ正確な熱収支は評価できない。
 一方、松浦6)は融雪水量を正確に把握するには熱収支法が最も優れているとした上で、積雪初期に発生する地すべりに対する場合、積雪初期の融雪の特徴は積雪表層での熱交換によって融雪水が積雪底面から流出する現象よりも、降雨と融雪とが一体となった融雪水量が観測される場合が多いことから、熱収支法では融雪量を予測することはできないと指摘している。更に8)、積雪表層の熱収支を正確に評価するには多数のセンサーを必要とし、研究以外の現場での適用は難しいとも言及している。

(3) 積算温度法
 積算温度法(degree day method)は熱収支法に分類されるが、気象の地域性も表現でき、前出した熱収支法に比べて便利な方法とされている9)。 一般に融雪量と積算気温とには地域に特有の関係が成立し、その係数は融雪係数(kw)と呼ばれている。
     Mw=kw・ΣT
     Mw:融雪(水)量(g/p2)
     ここにkwは比例定数であり、融雪係数(degree day factor,g/p2・℃・day)
 一般的にはkw=0.3〜0.9で採用される。 小川ら5)は様々な観測結果に基づき、日平均気温が0℃以上の日が3〜4日継続すれば、日浸透量への融雪水の影響が現れており、融雪開始時期は0℃以上の気温の継続時間によって支配されていると指摘している。また新潟県濁沢地すべり地での実測された融雪量と積算気温から融雪係数kw=0.4を採用している。
 気温の積算期間については小島ら3)によって10日間積算して相関係数0.95の融雪係数4.1mm(℃・day)を得たとしている。
 また、その基準温度に関しては積算気温(デグリーデー)を用いる時、日平均気温が0℃以下でも-3℃以上では起こりうる事を考慮すべきとし、デグリーアワーの場合は0℃以上の気温(例えば1時間平均)の積算で十分な相関が認められたと報告している。
 従って、この方法は簡便であるが故に、風速や積雪面の反射率(Aledo)による影響を表現できないなど適用性に限界があるが、気象観測網が希薄な地点での広範囲の地すべり地すべり危険予測に有効と思われる7)

(4) タンクモデル法
 前出した雪面低下法や熱収支法、積算温度法は積雪表面での融雪を検討するのに対 し、積雪層を一種のタンクとして融雪水を時間単位で予測するのがタンクモデル法である。 融雪水が積雪底面から地表面に流出する際に、強度の変化やタイムラグを生じる。
 小林2)によれば、流出のピークの遅れは積雪量が減少するにつれ短くなり、その割合は積雪50pにつき1〜1.5時間であったとし、石狩川の支流では流域面積が広くなるにつれての流出ピークの遅れ時間の増加は僅かで、面積が1桁増す毎に流出のピークの遅れ時間は1.16倍しか長くならない結果が得られたとしている。 また、石川ら4)によれば、融雪水の流出ピークのタイムラグは雪中で1〜1.5時間程度,地中で1.5〜2.5時間程度と観測されたと報告している。 以上のようなタイムラグを考慮し、ライシメータ等のよる実測値や前出の推定融雪量値を用いて地表面に到達する融雪水を時間単位で予測する手法である。


〜 参 考・ 引 用 文 献 〜

1)小島賢治:融雪機構と熱収支,気象研究ノート,136,1-38,1979
2)小林大二:融雪流出の遅れT,低温科学物理篇,40,61-66,1981
3)小島賢治・本山秀明・山田芳則:気温等単純な気象要素による融雪予測について,低温科学物理篇,42,101-110,1983
4)石川信敬・小島賢治:熱収支法,及び単純な気象要素による表面融雪量の予測について,低温科学物理篇,44,63-75,1985
5)小川正二・池田俊雄・亀井健史・和田 正・平松俊英:濁沢地すべり地における融雪水・間隙水圧・地下水位・地温の変動特性,地すべり,Vol.25,No,2,1988
6)松浦純生・竹内美次・浅野志穂・落合博貴:豪雪地帯の地すべり地における熱収支法を用いた融雪水量の予測,地すべり,Vol.31,No,2,1994
7)松浦純生:積層を誘因とした地すべりの発生予測における諸問題,地すべり,Vol.34,No,4 予知困難な地すべりの諸問題,1998
8)松浦純生・浅野志穂・岡本 隆・竹内美次・中村三郎:アメダス等のデータによる八幡平澄川地すべり発生前の積層外流出量の推定とその生起確率,地すべり,Vol.35,No,2 特集 秋田県澄川地すべり,1998
9)松浦純生:積雪地帯における降水の到達過程と地下水及び地すべりの挙動(その1)−冬期間における降水と地表面到達水量の動態−,地すべり技術,Vol.30,No,1(88号),2003