気象調査
制作:(株)オサシ・テクノス

気象調査の目的
 地すべり調査のうち気象調査は、地すべりの発生機構や変動機構を明らかにするために行われ、特に地すべりの変動要因のなかで最も重要な地下水位と降水の関係を明らかにし、これらの変動要因に対して適切な地すべり対策工を計画・施工することを目的としています。ここでは雨量計・積雪深計・融雪量計・気温について説明します。

1.雨量計 空から地表に降ってくる雨・雪・あられ・ひょうなどの総称を降水と呼びます。降水は人間の生活や産業に不可欠な資源であると同時に地すべりや土石流あるいは水害等の災害原因ともなっています。このように降水は人間が生活する上で最も基本的な観測対象のひとつとなっています。 気象観測では降った雨の深さをmmの単位で表し、降った雨が流出したり土中にしみ込んだりせずにその場に溜まった状態での深さを降水量といい、これを雨量と呼びます。雪やあられの場合は溶かしてその深さを表します。 広範囲の降水量を正確に測ることは困難なので、代表地点で雨量計を用いて通常は20cmの直径の面積に受けた降水量を周辺に降った代表値としています。

1. 1雨量計の種類 雨量計の計量型式としては貯水ます型・転倒ます型・差圧ます型があり、地すべり調査では転倒ます型をよく用います。また、降雪地域では降雪を降水量に換算して測定するために、転倒ます型雨量計にヒーターが装着されているものを使用します。

1. 2設置場所
1) 建物や樹木などの障害物が無く風の影響の少ない平坦な場所。
2) 障害物との距離は高さの4倍以上離れた所が理想。
3) 地面から雨の跳ね返りが入らないように芝生などの植生を施すか受水器を一段高い位置に置く。この場合、受水口が高すぎると誤差が大きくなることに注意。
4) 積雪地方では積雪深を考慮しこれよりも高く設置する。寒冷地用ヒーターを内蔵している場合は接地処理が必要。

1. 3雨量データ利用方法
 雨量データは調査段階・対策工施行段階・効果判定段階の各段階で利用し、調査段階では日雨量(mm)に集計した後、地すべり変動図に棒線グラフ併記して他の測定器との相関性を把握します。地すべり変動図は変動の誘因・計測機器相互の関連性・変動の範囲・変動の形態等を推定する際に効果的です。また必要に応じて時間雨量・累積雨量・実効雨量なども集計して表記します。
 対策工施行段階に於いては、時間雨量・累積雨量・実効雨量に警報基準値を設定し施工時の安全管理に活用し、施行後は対策工の効果判定に利用します。近年では、調査や対策工が終了した地すべり概成地においても、雨量をリアルタイムに観測し監視する手法が取られるようになってきています。

2.積雪深計
 地すべりや土石流などの土砂災害は梅雨期や台風シーズンに多く発生すると思われがちですが雪国では1月〜4月にかけての積雪期や融雪期においても多くの土砂災害が発生しています。このような積雪・融雪災害は雪が解けることによって発生した水分が土壌に供給されることによって発生する災害です。雪解けがゆっくり進行する場合はそれほど問題ではありませんが気温の上昇や降雨によって急激に雪解けが起こった場合には、降雨でいうところの集中豪雨と同様に大変危険な状態になります。また、積雪荷重は地すべり面の応力状態及び地すべり面粘土の強度特性(クリープ強度、劣化、回復)を変化させ地すべり土塊の不安定要素となることが知られています。

2.1 積雪深計の種類及び測定方法
 積雪とは観測場所の地面が半分以上雪に覆われた状態をいいます。測定方法は1cm単位の目盛を読みとる積雪量板計を用いる手動測定方式の他に、支柱の固定点から下方の雪面に向かって超音波や光を発して積雪深を算出する空中方式と積雪深ポール内から水平方向に光を発して積雪深を検出する自動測定方式などがあります。 積雪深計は、設置地点と現地の標高や地形・吹き溜まり状況の差異を充分検討のうえ代表地点を選定します。 手動測定では毎日定時に測定しますが、自記記録の場合は一定期間毎記録を回収する必要があります。測定の日界は通常、水位測定と同じにするか、午前0時とします。

2.2 積雪深データの利用方法 測定している雪面は、降雪等により凹凸となり高低差が生じやすいことや、風により測定器自体が横揺れしやすいことから誤差を生じやすくなります。また、猛吹雪では超音波・光波とも空中で乱反射し測定不能な場合もあります。積雪深測定データは時間−積雪量図として整理し、主に融雪地すべりの予測や融雪量の推定、春先の地下水位の上昇との相関性をみるために利用します。

3.融雪量計
 豪雪地域においては、降雨と同様に融雪により地すべり変動が活発化する傾向があります。これは融雪水が地盤内に浸透し地下水位が上昇することによって起こりますが、降水量と地すべり発生の関連については、必ずしも明確な相関性を持つものではありません。例えば豪雪年の融雪期に必ずしも地すべりが多発するとはいえません。これは、融雪期の気温や降雨等の気象条件の他、地温や地盤の透水性等の複数要因が関係しているからです。その他に、気温の上昇に伴い雪表面で発生した融雪水が積雪層内を通過する際の積雪深の程度や貯留状況等が影響しています。
 融雪量測定は、融雪水を受ける融雪ますと流量計を組み合わせて行います。融雪ますの1辺の長さは最大積雪深の2倍程度必要であるといわれており、地表面に設置します。雪解けの始まる融雪期(春)に測定を行い、雪表面から積雪中を浸透してきた融雪水を融雪ますで受けて流量測定を行います。
 融雪量観測は、積雪深データや温度データと合わせて融雪量や融雪パターンを判定し、水位変動形態のシミュレーションや予想最高水位の算定等に用います。

4.温度計・その他
 温度測定の対象は気温・水温・地温です。気温は降雨や降雪と対比したり、日射量との関係をみるために用い、地温測定は比較的水温の低い地下水帯がある場合に、周辺地盤との温度差を測定して地下水の流動域分布域の予想に用います。また、水温測定は地下水の賦存形態や流路を検討するために利用されます。
 温度計の型式としてはガラス製温度計・金属式温度計・電気式温度計があります。 地すべり変動観測では、実際の地すべり変動ではなく、天候や湿度等による測定誤差、気温の日変化や年変化を伴う可逆的な変動、潮汐の影響による28日程度の一定周期を有する変動等を含んでおり、測定値からこれらを取り除いた真の測定値に基づいて解釈する必要があります。

参考文献
 1)斜面防災対策技術協会:地すべり観測便覧、p208−216
 2)渡 正亮・小橋澄治:地すべり・斜面崩壊の予知と対策、山海堂 p13−15