建設省所管            西倉沢地すべり    静岡県

静岡県の地質


西倉沢地すべり位置図

「地すべり技術」掲載号:Vol.25、No.1(1998年7月、通巻73号)
1.地すべりの概要
 西倉沢地すべり防止区域は、静岡県庵原郡由比町西倉沢地内の駿河湾に面した急斜面にあり、急峻な山地と海とに挟まれた狭い帯状の平野部に人家が集中している。また、東名高速道路をはじめ、国道1号、JR東海道本線等、わが国の動脈が走る交通上枢要な位置にある。
 西倉沢地すべり防止区域内は大規模な地すべりの発生は比較的少なく、斜面崩壊に伴う土石流に悩まされてきた地区である。
 本地域は昭和45年に地すべり防止区域に指定され、以後、地すべり調査及び対策工事が随時実施されている。

 西倉沢地区は、有史以来たびたび土砂災害に見舞われてきた。これらの災害は、その多くが土砂流出(土石流)と急斜面の崩壊であることが記録されている。
 災害の形態は以下の3つに大別される。
 @表層崩壊…………表層部のルーズな堆積物や浅所の不安定岩盤が崩壊
 A地すべり性崩壊…渓流の源頭部にて発生
 B土石流……………寺沢・中ノ段沢・大押沢の3渓流で発生

 上記に示す土砂災害の素因としては、渓流源頭部付近の高標高部や斜面末端の人家背後が急斜面であること(地形的要因)、表層約10mに脆弱な崩土や強風化岩が分布すること(地質的要因)等があげられる。また、これまでの記録によれば誘因は降雨である。
 なお、西倉沢地内では、地震による斜面崩壊の記録はない。

2.地形・地質
 本地域は、丘陵性山地である浜石岳(標高707.4m)から南北に伸びる稜線の南端部から北東方向に分岐する尾根の東側斜面にあたる。
 この山腹斜面は、当地すべり防止区域最上部の尾根直下では弧状の急斜面をなし、急斜面の下方中腹部には段丘面を思わせる平坦面や緩斜面が、ほぼ同一標高に多く存在している。
 これらの平坦面や緩斜面の下には急斜面が連続し、この急斜面を背負う形で海岸線に沿って、人家が軒を連ねている。山腹は傾斜35度以上の斜面が70%以上を占め、その中でも渓流の源頭部は傾斜60度以上となっている。
 また、地域内には寺沢・中ノ段沢・大神沢の3渓流が存在する。これらは通常は流水がほとんど認められないが、豪雨時には多量の流水があり、下流域へ土砂災害をもたらす。

 本地域周辺に分布する基盤地質は、新第三紀中新世〜鮮新世の浅海堆積物である浜石岳層群の小河内層と浜石岳層である。西倉沢地すべり防止区域内では小河内層は斜面末端付近に分布しているのみで、大部分で浜石岳層が分布する。
 小河内層は主に頁岩から構成され、風化作用を強く受け易く、露頭では割れ目が発達しており小片状となっていることが多い。
 浜石岳層は礫岩を主体とし、これ以外では砂岩及び・砂岩・頁岩の互層よりなる。礫岩や砂岩は塊状無層理で固結度が高く、風化に対しては頁岩よりも強い。礫岩や砂岩は新鮮部では軟岩から中硬岩に分類される。これに対して頁岩は、層理面及びこれに沿った割れ目が発達しており、風化に対しては弱い。

 本地域の地質構造は、北西一南東方向の向斜軸によって規制され、地層の走向は北西一南東で西へ30〜40度傾斜している。したがって、急斜面下の海に面する人家背後の斜面では受け盤となっている。

3.素因・誘因
(1) 素 因
 ・渓流源頭部付近の高標高部や斜面末端の人家背後が急斜面であること
 ・表層約10mに脆弱な崩土や強風化岩が分布すること
(2) 誘 因
 ・降 雨

4.地すべり対策工事
 抑止杭工、法枠工、水抜きボーリング、ダム工、床固工、擁壁工、水路工
地すべりの特徴
 (1) 西倉沢地すべりの概要
 (2) 地形・地質断面概念図
 (3) 災害形態別ブロック図