移動シミュレーション シミュレーション
制作:国土防災技術(株)

 移動シミュレーション シミュレーション手法 土塊の移動・変形シミュレーシ体を分類・体系化しいてわかりよい。
図1 移動・変形解析手法の体系図(吉松,1998を一部改変)

 斜面の安定を検討するとき,現在実務で使用されるのはほとんどが,一般分割法(簡便法など)である。しばしば指摘されるように,一般分割法ひいては極限平衡法は,「力」の釣り合いのみを対象とするため,地盤の「変形」がまったく考慮されない。本来は,地盤内の「力(応力)」と「変位」の両方を検討対象とするのが,物理的にまっとうであることは論をまたない。しかしながら,その手続きはいささか煩雑であり,解析道具として重たい,与えるべき入力情報が多い,結果の解釈が難しいなどの理由から実務での利用はまだ少ない。近年パソコンの能力の飛躍的進歩とともに道具としては向上してきており,入力情報(現地情報)の取得技術の向上と相まって,これからの技術といえよう。 研究レベルでは,有限要素法(FEM),不連続変形法(DDA)または個別要素法(DEM)による移動・変形解析があるが,その中でも有限要素法(FEM)がその汎用性から,変形解析においてもいちばんの実績を誇る。
  最近では,杭やアンカーといった対策工の効果をFEM解析により評価する事例も報告されており,今後実務への展開が期待される。

以下,FEM解析に関する最近の文献を3編とりあげ紹介する。これらは,より物理的にを追求した結果か,すべて三次元解析である。

FEM解析の文献紹介
文献1 地すべりにおける深礎杭の3次元FEM解析事例(木下ら,2001)
 深礎杭ほか対策工の施工された地すべり地においてFEM変形解析をおこない,杭に作用するモーメントと地表面の移動方向をうまく再現することができた。なお,モーメントの再現にあたっては,地盤の変形係数の比を調整して適合させており,ほかにも浸透流解析により求めた浸透力の存在を重要なパラメータ因子として指摘している。


図3 解析メッシュ図(上:全体モデル,下:深礎杭とすべり面)


図5 地表面変位(FEM計算値・左図と観測値・右図)

文献2 地すべり抑止杭の解析−現行設計法と弾塑性FEMの比較(鵜飼・蔡,2001)
  「地すべり鋼管杭設計要領」にもとづく現行設計法(弾性床上の梁理論にもとづく)とFEM解析による結果を比較検討したもの。解析は「くさび杭の設計例」を事例として,杭の変位,応力,モーメントなどを検討。杭の挙動に影響を与える重要なパラメータとして,移動層およびすべり面層の強度定数,杭間隔を挙げ,逆にポアソン比,ダイレイタンシー角はあまり重要でないことを指摘した。

図6 解析モデルのメッシュ分割


図7 杭の挙動(Rs=1.0,D1=2 m):弾塑性FEMと現行設計法の比較

文献3 三次元安定計算に基づいて設計された杭工の有限要素法による検証(太田・倉岡,2003)
  ここでの三次元安定計算とは極限平衡法(修正ホフランド法)によるもの。修正ホフランド法を実務に採用したいのが目的のよう。修正ホフランドにより,必要抑止力を算定しても,実際の杭負担力や杭配置などの設定が難しい。モデル斜面を元に三次元のFEM解析をおこない,杭に発生するモーメント等を検討した。まだいろいろ難しいようで,地すべり鋼管杭設計要領により算定された杭の曲げモーメントとFEM解析結果による曲げモーメントでは10倍の開きがあった。抑止力の整合がとれるようにFEMモデルのパラメータチューニングをおこなった後においても,曲げモーメントの絶対値で約20%の開きがあり,その理由は判然としないようである。

図8 モデル地すべり斜面

図9 解析モデルのメッシュ分割

図10 地すべりの変位ベクトル図(計算値)

参考文献

・「研究論文」 木下慎逸・田中比月・酒井哲也・吉松弘行(2001):地すべりにおける深礎杭の3次元FEM解析事例,地すべり,Vol.38,No.3,268-274.

・熊潔・望月秋利・弓岡寛史・三木達夫(2001):FEMを用いた斜面安定解析法と切土斜面の崩壊メカニズムの検討,地すべり,Vol.38,No.2,129-135.

・太田敬一・倉岡千郎(2003):三次元安定計算に基づいて設計された杭工の有限要素法による検証,第42回日本地すべり学会研究発表会講演集,pp.197-200,平成15年8月.

・鵜飼恵三・蔡飛(2001):地すべり抑止杭の解析−現行設計法と弾塑性FEMの比較,地すべり,Vol.38,No.2,123-128.

・鵜飼恵三・蔡飛・鄭穎(2001):二列に配置された抑止杭の効果を弾塑性FEMにより評価する方法の提案,地すべり,Vol.37,No.4,18-23.

・若井明彦・鵜飼恵三・蔡飛(2003):種々の条件が地すべり抑止杭の抵抗力に及ぼす影響について,第42回日本地すべり学会研究発表会講演集,pp.201-204,平成15年8月.

・吉松弘行(1998):地すべり地におけるモデル解析の課題と今後の方向性,シンポジウム・地すべりに関わるモデル解析と実際,平成10年11月27日,地すべり学会.

○「有限要素法(FEM)を勉強したい方向きの本」
・地盤技術者のためのFEMシリーズ@ はじめて学ぶ有限要素法
・地盤技術者のためのFEMシリーズA 弾塑性有限要素法がわかる
・地盤技術者のためのFEMシリーズB 弾塑性有限要素法をつかう
  以上,地盤工学会より平成15年8月に刊行。