高密度電気探査
制作:応用地質(株)

1.解析処理の概要

 高密度電気探査では、得られた測定データ(電位データ)に対して逆解析処理(インバージョン)を適用することで、測線下の比抵抗断面を求めることができる。高密度電気探査の一般的な解析の流れを、図-1を用いて解説する。

ア)地盤を比抵抗構造としてモデル化し、初期モデルを作成する。初期モデルの作成では、測定データから作成した見掛比抵抗断面などを参考にすることが多い。

イ)順解析(フォワードモデリング)により比抵抗初期モデルから計算される理論的な測定データ(電位or見掛比抵抗)を求める。順解析では、リニアフィルター法(層構造モデル)、有限要素法 等を利用する。

ウ)理論的に求められたデータと測定データとを比較し、その差を計算する。その差が大きい場合には、差を小さくするように比抵抗モデルを修正し、もう一度理論的なデータを計算する。比抵抗モデルを修正する作業を逆解析といい、高密度電気探査の場合では非線形最小二乗法が用いられている。

エ)測定データと理論データの差が十分小さくなるまで、ウ)の作業を繰り返しおこなう。

オ)十分差が小さくなった比抵抗モデルは、測定データを十分に再現できる比抵抗モデルであり、その比抵抗モデルを最終的な比抵抗断面とし、結果図を作成する。 次節では、順解析、逆解析について解説する。

図-1 高密度電気探査の解析の流れ

2.順解析(フォワードモデリング)


 順解析の方法としては、リニアフィルター法、アルファセンター法、有限要素法等がある。今回は、もっとも広く用いられている有限要素法を紹介する。
 有限要素法は、問題とする領域(地盤)を有限個の微小部分(要素)に分割してモデル化する方法であり、これが手法の名の由来である。電位が地盤全体では複雑な分布をする場合でも、要素ひとつひとつの微小な部分では、電位を単純な関数で近似することが可能である。これを領域全体について組み合わせて連立方程式を導き、これを解くことで領域内の電位分布を求めることができる。
 図-2に、有限要素法のメッシュ例を示す。図の水色の部分が解析の対象領域である。また、地盤の電位分布を計算する時には、地盤の無限の広がりを表現する必要があるため、解析対象領域の外側にも領域を付け加えて計算を行う。

図-2 有限要素法 要素分割概念図
図-3(a)(b)に、順解析の例を示す。図-3(a)は100Ωmの均質地盤中に、低比抵抗異常帯が分布する比抵抗モデルである。このような地盤において高密度電気探査を実施した場合の測定データを、有限要素法により計算した例を図-3(b)に示す。

図3-(a) 比抵抗モデル 100Ωm均質地盤中に1Ωmの低比抵抗帯が分布
図3-(b)は、見掛比抵抗擬似断面とよばれるもので、測定データを見掛上の深度点に表示し、2次元深度断面として表示する方法である。測定データの品質管理でよく利用される方法である。
  図3-(a)(b)を比較すると、見掛比抵抗擬似断面は比抵抗モデルでの低比抵抗分布を反映してはいるが、その形状等は異なっており、真の比抵抗モデルを求めるためには後述する逆解析手法を適用する必要がある。
 実際の高密度電気探査では、測定データとして電位分布または見掛比抵抗擬似断面が得られ、それをもとに比抵抗モデルを推定することになる。

図-3(b) 比抵抗モデルから計算した見掛比抵抗擬似断面

3.逆解析(インバージョン)


 測定データから比抵抗分布を求める手法が逆解析(インバージョン)であり、高密度電気探査では、非線形最小二乗法という数値解析手法を用いる。
 ここでは、逆解析のイメージを、図-4を用いて解説する。
・まず、測定データ(見掛比抵抗断面 ア))を参考にして、比抵抗モデル イ)を作成する。この例では全測定データの平均値を計算し、その平均値を用いた均質なモデルを作成した。
・モデル イ)から理論見掛比抵抗断面 ウ)を計算する。均質な比抵抗モデルの場合には、均質な見掛比抵抗分布となる。
・理論見掛比抵抗断面 ウ)と測定データ ア)を比較し、その差が小さくなるように、非線形最小二乗法により比抵抗モデル エ)を修正する。
 この操作を反復的に行い、最も測定データを満足する比抵抗モデルを求める。解析の流れとともに、比抵抗モデルは、 イ)→エ)→オ)のように修正され、また理論見掛比抵抗は ウ)→オ)→キ)のように変化し、徐々に測定データに近づいていくことがわかる。最終的に、測定データと理論見掛比抵抗の差が十分小さくなったときの比抵抗モデルを、解析結果とする。

図-4 逆解析の流れと、比抵抗モデル・理論見掛比抵抗の変化

4.適用例


 図-5に、新第三紀中新世の泥岩・砂岩互層の地盤において、地すべり土塊の分布の把握を目的として、高密度電気探査を実施した例を示す。
 地表付近の高比抵抗部は、風化の進行やクラックの発達などにより、間隙が多くなった部分で、飽和度が低いと考えられる。この高比抵抗物の分布状況と地形の特徴を考慮して、すべり面を推定することができた。

図-5 高密度電気探査適用例