集水井工                                                      制作:(株)日さく

1.集水井の概要

 集水井工とは、地すべり防止工法の抑制工に分類され、地すべり地内において直径3.5m
程度の縦穴をライナープレートやコンクリート製セグメント等により構築後、縦穴内から
集水ボーリングを実施し、比較的深いすべり面付近の地下水を排除することにより、地下
水位の低下を図り地すべり活動を鈍化、停止させる工法である。




                   図1 地すべり防止工の分類





                   図2 集水工の概要図

2.集水井の設計の流れ

 集水井の設計の流れは、概ね以下のフロー図のように進める。






3.集水井の設計

3.1     集水井の構造

 集水井の材質には、ライナープレート、RCセグメント等が用いられる。

ライナープレート製の集水井は、一般に広く用いられ、設計土圧に対し補強リングで補強し、必要に応じてバーチカルスティフナー、ラテラルストラットを用いる。ライナープレート製の集水井は一般に広く採用され実績も多いが、材料の強度、耐久性および掘削方法から活動中の地すべりで過大な土圧がかかったり、地下水位が高くボイリングによる坑壁崩壊がある場合、掘削が困難になる、また温泉地帯などでは腐食しやすい場合があるなどの欠点もある。

一方、RCセグメント製の集水井は、材料の強度、耐久性が高く、鋼製刃口を用いた掘削であるため、深さが30m以上の集水井や活動中の地すべり、地下水位が高くボイリングの恐れがある地すべりには有効である。

 集水井の内径は、3.5mまたは4.0mが一般的である。しかし、地質条件、掘削孔径・延長により集水、排水ボーリングを掘削する機械が大型になる場合や深度30m以上の深い集水井では施工性、安全性を考慮して内径を標準より大きくする場合もある。

      

                 図4 集水工の構造(ライナープレートによる例)


3.2     集水井の計画深度

 集水井の計画深度は地すべりの活動状況により異なる。地すべりが活動中の場合は、底部をすべり面より2m以上浅くし、停止中の場合はすべり面より23m程度貫入させる。これは移動中の場合は集水井が破壊される恐れがあること、停止中の地すべりではすべり面付近の排水性を高めることや排水ボーリングが地すべりの影響が少ない基盤に設置することができることによる。

 集水井の深度については、各施工主体により若干考え方が異なるので、基準書類により確認する必要がある。

3.3     土圧計算

 集水井の設計計算を行う際に、集水井外周面に作用する荷重として土圧を考慮する。なお、通常検討する荷重は主働土圧のみとし、水圧は考慮しない。また、必要に応じて地すべり運動に伴い発生する土圧を考慮する場合がある。

 土圧計算式には、ランキン、テルツァーギ、静止土圧式があるが、式の適用条件は各施工主体により異なるので基準書類で確認する必要がある。

 以下では、「地すべり防止技術指針及び同解説」に示されている土圧式を示す。

     Ph = k・γ・h    h<15m  ・・・(式1)

Ph =15k・γ    h15m  ・・・(式2)

Ph:土圧(kN/m2

k:静止土圧係数(砂質土、粘性土にかかわらず0.5とする)

γ:土層の単位体積重量(kN/m3

h:地表面からの深さ(m

 なお、h=15m以深においても土圧が増加すると判断される場合は式1を準用する場合がある。

              
              
              

                   図5 集水井外周面に作用する土圧

.4     外枠の設計計算

 3.3で求めた最大土圧に対して、座屈に対して安全な部材の断面を検討する。断面の決定は、次式により求める。この式を満足しない場合は、補強リングで補強する。

    qA=3EI(fR3) > Ptmax  ・・・ (式3)

    qA:集水井外周面の許容外圧(kN/m2

    E:ヤング率

    I:ライナープレート、コルゲート深さ1mあたりの断面二次モーメント(m4/m

           ただし、集水孔、ボルト孔等を考慮して有効断面二次モーメントは0.8I0I0

集水孔、ボルト孔等がない場合の断面二次モーメント)

    f:安全率(1.52.0

    R:集水井半径(m)

    Ptmax:集水井外周面に作用する最大土圧

3.5     集水ボーリングの設計

 集水ボーリングは、地質調査、地下水調査結果などから帯水層に向けて、1〜数段計画し、自然排水できるようにする。ボーリングの配置、間隔、仰角は、調査結果や近傍の施工実績等を考慮するが、ボーリング先端間隔は510m、仰角は510°程度であることが多く、平面的な配置は帯水層に向け、できるだけ広範囲に設けることが望ましい。集水ボーリング1本あたりの長さは50mを標準とするが、すべり面や帯水層の位置等により、100m程度となることもある。

 ボーリングの内径は通常40mm以上のストレーナー加工した塩ビ管を用いるが、集水量が多量の場合は、300mm以上の大口径とする場合もある。

              

   
       
   
            図6 集水ボーリングの仰角


         
             図7 集水ボーリングの先端間隔

3.6   排水ボーリングの設計

 排水ボーリングは自然排水を原則とするため、想定される集水量が滞りなく排水できる程度の下り勾配とし、長さは80m程度までのものが多い。排水延長が長くなる場合は別の集水井に連結することもある。孔径及び材質は100mm程度の鋼管を標準とするが、排水量が多い場合は排水ボーリングを複数本設けたり、300mm以上の大口径とすることもある。 

また、排水ボーリングの流末は地すべりに影響がないよう速やかに水路や河川に排水し、孔口付近の法面は排水工がふさがれないよう蛇かご等で保護すると同時に、排水による浸食がなされないよう水路工等を整備する。


4.設計上の留意点

  集水井の計画位置は、集水ボーリングの範囲に帯水層が存在すると見込まれ、地すべりブロックをできるだけ平面的にカバーできるように配置する。特に集水域が広い地すべりブロックでは、地すべり頭部の引張領域をカバーすると効果的である。

  集水井の設置位置は、施工時の安全性を考慮し、急な斜面上には計画しない。

(参考文献)

  「地すべり防止技術指針及び同解説」,平成20年,国土交通省砂防部、独立行政法人土木研究所,()全国治水砂防協会発行

  「治山技術基準解説-地すべり防止編」,平成15年,林野庁監修,(社)日本治山治水協会

  「土地改良事業計画設計基準-農地地すべり防止対策基準書・技術書」,平成16年,農林水産省農村振興局計画部資源課監修,(社)農業土木学会発行