シャフト工(深礎杭)の設計(杭としての設計)
制作:日本工営(株)

1. 工法の概要
 地すべり規模が大きく、その推力が鋼管杭などの杭工では抑止が困難である場合、深礎杭工(シャフト工)が計画される。また、地盤条件などの関係で大口径ボーリングによる掘削が困難であるため鋼管杭工の施工が難しい場合にも計画される。いずれも基礎地盤が良好であることが条件である。(図1、図2)
 深礎杭工は地すべり地内で直径3.0〜6.5mの縦坑を、ライナープレートなどを利用して不動地盤まで人力または機械で掘削し、縦坑内に主鉄筋としてD 32〜D51を円筒状に組み、コンクリートを流し入れた鉄筋コンクリートの柱体として施工される。(図3〜図5)

2. 設計法概要
 2.1 設計の手順
 深礎杭工の設計手順を図6に示す。なお、深礎杭工は規模が大きくなり、工事費等も莫大になるため、いきなりこのフロー図に入るのではなく、前段で他の抑止杭工(大口径鋼管杭工、厚肉鋼管杭工、アンカー付き鋼管杭工等)と比較検討を行い、経済性、施工性、安全性の点から深礎杭工が優位であることを確認しておく必要がある。

 2.2 杭形式の決定
 深礎杭工の設計ではまず、剛体杭(ケーソン)として設計するか、たわみ杭として設計するかを判別する。
 剛体杭(ケーソン)は、荷重に対し杭体は変形せずに対抗すると考える。杭体は水平方向、鉛直方向の地盤の反力で安定が図られるものとして、構造設計を行う(図7(a))。
 たわみ杭は、荷重に対し杭体がたわんで対抗すると考える。一見、剛な鉄筋コンクリートでも長い柱体となれば地中でわずかであるが鋼管と同じようにたわみ、弾性体とみなせる杭周辺地盤との力のやりとりで、その効果を発揮すると考える(図7(b))。
 剛体杭、たわみ杭の判別は判別式で行われる。判別式は建設省河川砂防技術基準(案) 設計編4)より抜粋すると、次のとおりである。
 しかし、深礎杭工を採用するような地すべりは一般に規模が大きいため、その層厚も大きいことから判別式ではたわみ杭となる場合が多いこと、さらに、平成8年の道路橋示方書の改定により剛体杭も地中でたわむ弾性体として設計することとなったため、深礎杭はたわみ杭として設計するものとしてよい。
 ただし、平成9年度版の建設省河川砂防技術基準(案)設計編4)では、判別式によって剛体杭(ケーソン)として設計する旨が掲載されており、剛体杭としての設計法が否定されているわけではない。

 2.3杭(たわみ杭)としての設計
(1)手順(図6参照)
1)まず、設計外力や施工条件等に応じて杭の諸元(杭径、杭間隔、杭根入れ長、鉄筋配列、外壁形式)を設定する。これまでの施工事例では次の諸元が一般的に用いられている。ただし、構造計算で安定が確認されれば、必ずしもこれにとらわれる必要はない。
  杭径(d)・・・・3m〜6.5m
  杭間隔・・・・・・2d〜10m+d
  杭根入れ長・・・・1/3・L(ただしL:杭全長)
  鉄筋配列・・・・・放射状で2列〜4列
           (鉄筋間隔、かぶり、継手位置・長さ、帯鉄筋については一般的な基準に基づく)
  外壁形式・・・・・ライナープレートもしくは鋼製セグメント、RCセグメント
2)つぎに、杭体に生じる断面力を算出する。断面力は鋼管杭と同様の計算方法で求めることができる。抑え杭とするか、くさび杭とするかの判別も同様である(図8)。断面力の算出方法については鋼管杭の章を参照されたい。
3)そして、求めた断面力に応じて配筋計算を行い鉄筋の配置を決定する。配筋計算は一般的に用いられている「鉄筋コンクリートの新しい計算図表(RG):近代図書」などの円環断面の計算により行う。市販の計算ソフトを使用することができる。
4)最後に、杭周辺地盤(根入れ部)の破壊の検討を行う。深礎杭の変形により地盤応力が変化すると、場合によっては降伏して杭根入れ部の拘束効果が損なわれる可能性があるためである。鋼管杭の根入れ部の安定確認と同じ手法で検討するが、最近では弾性2次元のFEM解析によって検討した事例もある。
5)これらの設計計算で求められた応力度、変位量が、コンクリート、鉄筋、杭周辺地盤の許容応力度、許容変位量を超えてしまう場合には、杭の諸元の設定に戻り、再設定を行って安定が確認されるまで一連の設計計算を繰り返すことになる。
6)また、これと平行して土圧による外壁の設計を行う。外壁には静止土圧と偏土圧が作用するものとして安定計算を行う。外壁は最終的には地すべり力に対抗するものではないが、施工時の杭体形状確保ならびに安全性確保のために重要な構造物である。

(2)鋼管杭の設計との違い
 鋼管杭が引張応力度で断面等が決定されるのに対し、深礎杭の場合はせん断応力度で断面が決定される場合が多い。特に、すべり面付近においてコンクリートのせん断応力が許容値を超えることが多く、補強が必要になる。せん断補強の方法としては、鉄筋やH鋼をせん断面をはさんだ箇所に水平方向に配置する方法がある(図10)。

(3)断面変化
 橋梁基礎の深礎杭の設計では、経済性を考慮して曲げモーメントの分布形状に合わせた配筋の断面変化を行うのが一般的である。地すべり抑止杭の場合も、すべり面の位置が特定されている場合は同様の考え方を適用することが可能であるが、すべり面位置が不明確な場合、安全側を考慮して計算上の最大鉄筋量を全長にわたって配置することが多い。6)

(4)その他の留意点
 一般に深礎杭を採用する地すべりは規模が大きく、工事費も高価となることから、実施設計においては主測線だけではなく、横断方向の他の杭位置においても断面計算を行い,それぞれの断面構造を決定する。その場合,すべり面深度や杭長が同程度の杭については、それぞれまとめて検討することもある。
 また、地すべり層厚は側方部で薄くなるため、主測線で半無限長のくさび杭とした計算条件が適用されても、側方部ではその条件は満足しないという問題が生じることがある。この場合は、「有限長の杭」として検討することが望ましい。5)


<引用文献>
1)中村浩之:地すべり対策工の抑止工と抑制工、(社)斜面防災対策技術協会関東支部,2005年
2)大分県土木建築部砂防課、大分県日田土木事務所:山際地すべり、1990年
3)シャフト工の施工:インターネット資料
4)日本河川協会編:建設省河川砂防技術基準(案)設計編、山海堂、1997年
5) (社)斜面防災対策技術協会:HP技術資料、深礎杭工(シャフト工)
6)斜面防災・環境対策技術総覧編集委員会:斜面防災・環境対策技術総覧、且Y業技術サービスセンター、2004年