弾性波探査
提供:基礎地盤コンサルタンツ(株)

(1)弾性波探査の概要説明
 地すべりの調査技術として弾性波探査が用いられる場合には、そのほとんどがP波を用いた屈折法探査である。また、地すべりを含む土木分野での弾性波探査は、通常、屈折法探査を意味している。屈折法探査以外で地すべり調査に使用される可能性のある広義の弾性波探査としては、反射法探査や表面波探査、弾性波トモグラフィなどが挙げられる。
 弾性波探査(反射法探査を除く)で求められるのは、弾性波速度分布である。弾性波速度値は、地質やN値、一軸圧縮強度等の工学的諸量との相関が良いことから、地すべり面の推定や対策工の選定、設計のための資料などとして用いられている。
 反射法探査では、密度と弾性波速度の積である音響インピーダンスの違う境界面が反射面として得られ、地質構造や地層構成の推定に用いられる。速度逆転層の上面も検知できるが、反射法探査のみでは弾性波速度分布に関する情報を得ることはできない。

(2)各種弾性波探査の説明
1)屈折法探査
 測線配置計画では、図1に示すように、格子状に設定することが望ましく、不動域へも延長して測線を設定するべきである。断層が予想される場合には測線を延長する。
 また、測定では、図2に示すように、火薬やハンマー等で起振させた屈折波を多数の受振器で取得し、測定器で記録する。測線長や起振点・受振点間隔については、探査深度や解像度等の目的に応じて決定する。

 解析では、取得した波形データからP波の初動走時を読み取り、図3の上側に示す走時曲線図にプロットすることにより、はぎとり法(「萩原の方法」とも言う)による層構造解析を行う。解析結果としては図3の下側に示す速度層構造が得られる。解析上、深部へ行くほど高速度となることを仮定しているため、速度逆転層には対応できない。詳細な解析手法については、(5)の「引用・参考図書」をご覧願いたい。最近では、コンピュータによる計算及び図化方法の進歩により、解析結果の客観性と図4に示すような可視化を実現した屈折法トモグラフィ解析が実用化されている。この解析手法を用いることで、局所的な速度逆転層等の不均一な速度構造にも対応できる。


2)反射法探査
 測定では、図5に示すように、火薬やハンマー等で起振させた反射波を多数の受振器で取得し、測定器で記録する。測線長や起振点・受振点間隔については、目的に応じて決定する。屈折法探査と比較すると多くの起振点が必要である。
 解析では、反射波に対してNMO補正やCMP重合等の様々な処理を行い、反射時間断面図を作成する。この反射時間断面図を反射深度断面図に変換する為には弾性波速度に関する情報が必要である。解析結果例を図6に示す。速度逆転層にも対応できる。
  近年では、地震防災的な見地からの断層調査や土木的な基盤調査にも適用されているが、元来、探査深度数kmにも及ぶ石油資源探査の中心的な手法として用いられているものである。探査深度数10mから数100mの反射法探査を浅層反射法探査と呼んでいる。


3)表面波探査
 表面波探査とは、図7に示すように、起振機で 表面波(レーリー波)を発生させ、2点に設置し た受振器で波動を検知することによって伝播時間 差より、地盤のS波速度構造を把握する探査法で ある。起振周波数を変えることで、図8に示すよ うに、深度別の速度構造を得ることができ、速度 逆転層にも対応できる。
 最近では、平坦な地表の直線上に起振点及び受 振点を連続的に設置し、測定・解析することによ って、面的なS波速度構造を推定する2次元表面 波探査が実用化されつつある


4)弾性波トモグラフィ
 探査領域を取り囲むように起振点と受振点をボーリング孔や横坑、地表等に設定して、測定・解析を行う探査手法である。図9に測定パターン例を、図10に解析結果例を示す。P波の初動走時トモグラフィが一般的である。数10m程度の狭い領域の精査に利用されることが多い。


(3)弾性波探査上の留意点
 弾性波探査を行うに当っては、計画・測定・解析を通じて、目的を達成できる探査深度や解像度、信頼性に留意すると共に、自然・社会環境も考慮する必要がある。特に問題となるのが起振源である。火薬を使用する場合には、関係法令に従って都道府県に申請し、許可を得ると共に、測定時の火薬の取り扱いには十分に注意する必要がある。

(4)弾性波探査結果の利用方法及び利用上の留意点
 図11に示すように、地すべり土塊(移動土塊:表層土または崩積土等)と基盤岩(不動岩盤:新鮮岩等)との間に弾性波速度の差異が想定される場合には有効であるが、図12に示すように、中間の風化層内や基盤岩内にすべり面が存在する場合には、弾性波探査のみからでは、すべり面を推定することは出来ない。また、何れの場合にも、ボーリング調査等と組み合わせることにより、面的なすべり面の推定精度を向上させることが出来る。

(5)引用・参考図書
ア) 物理探査学会(2000):「物理探査適用の手引き」(特に土木分野への利用)
イ) 物理探査学会(1998):「物理探査ハンドブック」
ウ) (社)地盤工学会(2001):「地盤工学への物理探査技術の適用と事例」
エ) 伊藤芳朗他(1998):「斜面調査のための物理探査」、吉井書店