地すべり地形判読
制作:弘前大学農学生命科学部 桧垣大助
(日本地すべり学会東北支部)

1.地すべり地形判読はなぜ必要?

 地すべりは、反復性・再活動性のあるのが特徴です。そして、地すべりは多くの場合、滑落崖と移動体からなる地すべり地形と呼ばれる特有の地形を作ります(これを古谷(1980)は単位地すべり地形と呼んでいます)。したがって、地すべり地形を地形図や空中写真などから判読することは、地すべり発生危険箇所を把握するのに有効になるのです。
 また、初生地すべりから、長い間安定して谷の侵食などによって移動体や滑落崖が開析を受けた地すべり地まで、地すべりの発達段階でさまざまな地すべり地形が現れます。初め岩盤地すべりとして発生したものでも、地すべりの繰り返しの過程で岩盤は破砕・風化を受けます。それは地下水挙動や地すべりの動き方にも影響を与えます。渡・小橋(1987)は、この点に着目して図-1に示すような発達段階ごとの地すべり地形を示し、それぞれの運動や構成土塊の性質等について述べました。つまり、地すべり地形を注意深く判読することで、地下の土質・地質・地質構造や地下水分布の推定を助けることになります。この段階では、地すべり地の微地形を見ることが必要です(図-2)。


 地形は、過去のさまざまな営力の結果作られた歴史的産物です。そこから情報を読みとって地すべりの範囲や活動性、地盤内部の状況、地すべり地の発達過程などを把握し、対策に活かすことができます。地形は見るのではなく読むのです。

2.単位地すべり地形の判読

 地すべり地は削剥(発生)域と押出(堆積)域からなっています(図-2)。滑落崖はすべり面が露出した前者の一部ですが、岩盤中の弱面などがすべり面となって移動体がもとの場所から分離してできた場合は分離崖と呼ばれることがあります。削剥域と押出域の組み合わせからなる地形が単位地すべり地形で、地すべり地形かどうかの判定にはこの点に着目します。これが熟練者でも悩むところですが、例えば、段丘では削剥域がありません。
 わが国の地すべり地形の分布については、全国をカバーすべく発行が進んでいる(独)防災科学技術研究所の地すべり地形分布図(1/50,000)があり、そこでは滑落崖と移動体を1つのセットとして地すべり地形の輪郭を示しています。滑落崖地形があっても移動体を伴わないものは、通常、地すべり地形とは言いません。逆に、初生すべりや、まだすべり面が連続していない岩盤クリープの段階の移動域では、滑落崖が判読できないことがあります。また、地すべりとして発生したが、移動体が削剥域から抜け落ちてしまって、下方の谷底に台地のように残っていることもあり、最近、地震でよく起こることがわかってきました(井上, 2006)。これは移動体に再活動性が無いので単に地すべり起源の堆積物丘と呼ぶべきでしょうが、段丘などと誤認されやすいので記しておきました。

 また、図-2のイメージでは滑落崖を円弧状で想定しやすいのですが、岩盤構造や断層面などの影響で角形や楔形の平面形となることもあります。

3.微地形の判読

 地すべり地の微地形は、引っ張りや圧縮による地盤の変形・褶曲や地層構造や岩盤キレツ構造そして破砕程度などの移動体の中の状況を反映します。凹地・小丘・段差・亀裂・ガリーなど、さまざまな微地形が現れるのが地すべり地の特徴で(図-2)、地形から地すべりブロック範囲を認定するときは、どの範囲にどんな微地形があるかに注目することが多いのです。地すべり微地形を判読するには空中写真を使うのが良く、できれば1/2万以上の縮尺が必要です。判読結果は、微地形分布図(地形分類図)として表現します(図-3)。
 また、岩盤クリープ・サギング・山体変形などと呼ばれる地すべりや大規模崩壊の前兆となりやすい山地内部の重力変形は、稜線や斜面上部の引っ張り応力下で重力断層や陥没によってできる線状凹地として現れます。写真の中央は山形・新潟県境山地の岩盤クリープ斜面です。稜線部の陥没による溝状凹地とその下方の膨らみ出し斜面、その付近に斜面傾斜方向に直交する数列の線状凹地が見えます。
 このように、微地形から地盤内部の状況をある程度予測することができるのです。それは、顔色や表情からその人の体調や感情を推し量るのと同じです。

4.地形判読を活かそう

 地形判読は名人芸ではありません。基礎的な地形・地質の知識を持って現場踏査を重ねていけば論理的な思考でできる1つの技術です。現場に行く前、そして帰った後、地形図や空中写真を読んで下さい。その結果を各種の地盤調査結果と組み合わせることで、地すべり機構など調査・対策工検討の視点が広がるはずです。

<文献>

・古谷尊彦(1980):地すべり地形―特に単位地すべり地形の取り方について, 西村先生退官記念地理学論文集, 165-169.
・井上公夫(2006):建設技術者のための土砂災害の地形判読実例問題 中・上級編, 古今書院, 東京
・宮城豊彦(1992):地すべり地内部の微地形判読, 地すべり学会東北支部:「東北の地すべり・地すべり地形」, 119-123, 仙台
・鈴木隆介(2000):建設技術者のための地形図読図入門 第3巻 段丘・丘陵・山地, 古今書院, 東京
・渡正亮・小橋澄治(1987):地すべり・斜面災害の予知と対策, 山海堂, 東京