地盤伸縮計
制作:(株)興和

1.     概要

 地盤伸縮計は、主として地すべりの移動状況の把握を目的に使用されます。特に、地すべりの活動が活発化し、亀裂などが生じた場合に時間の経過とともに変化する亀裂の拡大や地すべりの移動状況を把握するために設置、観測されます。その他では、大規模な切土、盛土などの土工時の際に地盤変動の監視や地すべりの移動方向を明らかにする目的で使用される場合もあります。
 このように地盤伸縮計は、地すべりによって発生した亀裂や段差をはさむ区間の伸縮量の経時的変化を測定するのに利用されます。また、この観測データを利用することで斜面の滑落時期を予想することができる場合もあります。

2.     原理

 測定原理は次のようになります。まず、観測対象の両端部に丈夫な杭を設置します。その2地点の一方に地盤伸縮計を設置し、他方の杭からはインバー線を張り、観測対象をはさんで地盤伸縮計に連結します。杭側のインバー線は動かないように杭に固定しますが、地盤伸縮計側のインバー線は地盤伸縮計に巻かれたワイヤーに接続します。地盤伸縮計のドラムには記録紙が巻いてあり、そこに記録ペンが設置されています。記録ペンは、時計装置によりドラム回転軸に平行に移動するようになっています。この機構により、両杭間の地盤が伸縮すると、地盤伸縮計のドラムが回転し、時間−変位量のグラフが記録紙に記録される仕組みになっています。

           

-1 地盤伸縮計の原理 1)


3.     設置方法

 地盤伸縮計の設置図を図-2に示します。設置の際に最も重要なことは、インバー線を設置する杭の設置です。杭は、固定するのに十分な断面を有する材料とし、1m以上打ち込みを行います。なお、杭間の設置スパンは原則として15m程度以下とします。また、動植物の接触による誤作動や温度変化によるインバー線の伸縮を極力防止するため、インバー線は塩ビ管等で保護する必要があります。この際、保護管がインバー線に接触しないよう注意が必要です。また、積雪地域では保護管が雪の重みで下方にずれやすいので、保護管は補助杭などで固定することも必要です。

   

    -2 地盤伸縮計の設置模式図 1)   図-3 地盤伸縮計設置写真 


4.     観測

 観測結果は、地盤伸縮計のドラムに巻かれた記録紙に直接記録ペンで記録されます。記録紙の縦軸は伸縮量、横軸は時間を表しているので、時間経過と変位の関係がその場で確認することができます。記録感度はギヤの機構を通して拡大されてドラムの回転量となって記録されます。観測期間は記録ペンの送り速度によって1日、8日、及び1ヶ月のタイプがあります。最近では、記録紙を使わないデジタルタイプのものも使用されています。

なお、観測を開始する際は、記録紙に地点名や開始日時、引張・圧縮方向などの必要事項を記入し、記録紙と記録ペンをセットし観測を開始します。

 

5.     観測結果の利用法

 観測の結果は、縦軸に累積地盤伸縮量、横軸に日時をとり、降水量または、地下水位と対照できる図に整理します。図-4にその一例を示します

                    
                    
                  -4 地盤伸縮計測定結果の整理例 1)

6.     観測上の留意点

 地盤伸縮計の観測では、以下の点に注意する必要があります。
@  地盤伸縮計は、インバー線の延長方向に対し直角に近い方向への移動にはほとんど感度
 がありません。このため、地すべり側壁部に地盤伸縮計を設置する場合は、インバー
 線の延び方向をできるだけ地すべり移動方向に近づける必要があります。

A  変動は引張変動ばかりでなく、隆起、沈下、設置場所によっては、圧縮の変動も計測
 される場合があります。このため、設置場所における変位状況を把握して設置する必要があります。

引用文献:

1)  地すべり対策技術協会:地すべり観測便覧,p.1111191996

2)  国土交通省砂防部、独立行政法人土木研究所:地すべり防止技術指針及び同解説,
 p.27292008

3)  日本河川協会:建設省河川砂防技術基準()同解説調査編,山海堂,p.2092112000

4)  斜面防災対策技術協会:地すべり対策技術設計実施要領(平成19年度版)p.1022007

5)  綱木亮介:地すべり対策技術協会、地すべり防止技術研修テキスト(平成12年度版)
 V.調査技術全般,p.3537