1m深地温探査
制作:(株)東建ジオテック

1.探査原理
1m深地温探査は,その名のとおり地表面から1mの深さの温度(この場合は地温)を測定して,地下に周辺と温度が違うゾーンがないかを探るものです。この探査方法は古くから温泉や地熱開発の分野で利用されてきました。地下に温泉などの高温体がある箇所の地温は高くなりますから,広い範囲の地温を測定すれば,温泉の位置を探し当てることができるのです。この方法は最近では地すべり地内の地下水流動脈の探査にも多く利用されるようになりました。
地下水は常に一様に分布しているわけではなく,ある特定の箇所を集中して流下しています。このような箇所は地下水脈とか水ミチと呼ばれています。地すべりでは地下水を排除することが地すべり滑動を抑制するために非常に有効で,1m深地温探査は,この原因となる水ミチを面的に把握し,地下水排除工等の計画に役立てられています。

2.測定方法
測定に際しては表-1のものを用意します。
 測定は,調査地に5m×5m〜10m×10m程度の測点網を設けて実施します。作業の手順は図-1のとおりです。温度の測定は測温体を挿入して10分経過してから行いますので,孔空けをして測温体を挿入する班と温度を測定する班は別々に行動しないと作業効率が悪くなります。通常は,測定者1名,穴空け班2〜3名,測温体を順次運びながら測定者に測定時間を知らせる者1名の計4〜5名で行います。
なお,流動地下水温の年変化は少ないのですが,1m深地温は年変化が激しく,両者の温度差が少なくなる時期(温度差±2.5℃以内)は探査に不適で,逆に温度差が大きくなる時期が最適時期となります(図-2)。
3.結果の整理及び利用
測定した1m深地温はいくつかの補正を行う必要があります。
@経日変化補正
測定が1日で終了する場合には必要ありません。しかし,測定が数日におよぶ場合には,調査地の適当な場所に定点観測点を設けて,毎日の作業前,昼食時,作業後に温度を測定して,測定期間中の経日変化を求めて,測定値の補正を行う必要があります。
A地況補正
測定する箇所が日当たりの良い裸地なのか,日陰の林なのかで1m深地温には影響が現れます。測定値をこのような地況毎に統計処理して,測定値の補正を行います。
B測温体補正
1m深地温探査では,10本程度の測温体を使用しますが,測温体間の固体誤差を確認して,測定値を補正します。具体的には,恒温槽に測温体を入れ,測温体毎が示す温度差を求め,全平均値に一番近い値を示したものを基準として,各測温体の補正値を決めます。
以上の補正を行った後に,図-3のような1m深地温等高線図を作成します。
図-4のように夏秋と冬春とでは地下水流動脈の存在による1m深地温への影響は異なるので,結果の解釈には注意が必要です。例えば夏期では流動地下水温の方が平常1m深地温よりも低く,もし地下水流動脈が存在していれば,その箇所は周辺の1m深地温より低めに検出されることになります。図-3の例はこのような場合です。逆に,冬期では両者の関係は逆転するので周辺より高い1m深地温を示す箇所が地下水流動脈の位置になります。
4.利用上の留意点
@地下水流動脈は,調査地内で常に地表面から同一深度に存在しているわけではないので,存在深度が変化すると1m深地温には影響が出ます。また,流動層の規模が変化しても同じように影響が出るため解釈には注意が必要です(図-5)。
A調査地内に分布深度の異なる複数の流動地下水が存在すると,1m深地温にはこれらの影響が出てしまい,判定が困難になります。また,どれかの影響が強すぎると,他の存在がかすんでしまうため注意が必要です。 B測定間隔は流動地下水の分布深度や流動脈の規模に応じて決める必要があります。調査の実施前にこのことを想定することは難しいのですが,間隔を大きくしすぎた場合には小さな流動層は見逃しやすくなり,間隔を小さくしすぎた場合にはノイズばかりが多くなります。 C地形の急変点付近や石垣・コンクリートなどの側では1m深地温への影響が考えられるため,測点をずらしてその影響を少なくしておく必要があります。

【参考文献】
(1)竹内篤雄著(1983):地すべり地温測定による地下水調査法,吉井書店 (2)竹内篤雄著(1996):温度測定による流動地下水調査法,古今書院 (3)伊藤芳朗・楠見晴重・竹内篤雄編(1998):斜面調査のための物理探査,吉井書店,pp143-169. (4)竹内篤雄・中山健二・渡辺知恵子著(2001):温度を測って地下水を診断する,古今書院