<取材内容>

1.  全般

1)   斜面災害研究センター全体としての目的は何ですか?

地すべりによる斜面災害から人命・財産や文化・自然遺産をまもるために、地震・豪雨時の地すべり発生運動機構の解明、地球規模での斜面災害の監視システムの開発、地すべりのフィールドにおける現地調査・計測技術の開発及び斜面災害軽減のための教育・能力開発を実施する。また、斜面災害に関する世界的ネットワークの中核的研究センターとして、斜面災害軽減に関する国際共同研究の企画調整を実施する。
――斜面災害研究センターパンフレットより――

2)   斜面災害研究センターの防災研内での位置付け(他研究グループとのかかわり)は?

 

 

−京大防災研究所HPより−

3)   主な活動場所(研究所内?フィールド?)はどこですか?

徳島県地すべり観測所 (西井川地すべり、善徳地すべり、眉山の地すべり等)

備中松山城(岡山) 不安定岩盤斜面監視システム

中国 西安市華清池(楊貴妃宮殿) 裏山の驪山斜面の地すべり

ペルー マチュピチュ遺跡

4)   成果の発表はどのような機会におこなっていますか?

論  文:国際ジャーナル「Landslides」,Engineering Geology, American Society of Civil EngineersASCE)など…論文リスト参照

口頭発表:日本地すべり学会研究発表会,ICLシンポジウム,IPLシンポジウムなど

 

2.  個別研究課題について

(1)非排水動的載荷地すべり再現試験機に関する研究

1)今取り組んでいる研究概要

(a)大規模再滑動型地すべりの危険度評価と被害軽減化対策
 この研究では,これまで重視されていなかった大きな被害をもたらした大規模再滑動型地すべりを対象とし,物理探査,土質試験,現地計測および数値解析により,再滑動型地すべりの三次元的な活動範囲を同定し,これらの結果に基づいた地すべり運動シミュレーションによる再滑動地すべりの危険度評価を行って,地表変動と地下水位の関係に基づいた地すべり警報システムの開発を目的としている。
(b)2004年台風10号により誘発された徳島県阿津江地区大規模深層すべりの変動メカニズムおよび運動予測

 2004年台風10号により徳島県阿津江地区で大規模な斜面崩壊が発生した。これにより,古い大規模深層地すべりが再活動し,現在その動きが活発になっている。本研究は,

(1)地すべりの移動変位を計測し,巨大地すべりの崩壊前兆現象を把握する。

(2)すべり面付近から採取した供試体に対して,リングせん断試験を行い,長距離せん断変位時のせん断強度の変化を解明する。

(3)現地観測と室内実験の結果から大規模深層地すべりの変動メカニズムを解明するとともに地すべりの運動範囲等を予測する。

(c)可視型地すべり再現試験機と模型斜面土層を用いた流動化構造の形成と高速地すべりの運動機構の解明

 可視型の地震時地すべり試験機を用いて,土層流動化の過程とメカニズムを多面的・実証的に解明するための鍵として,試験機内で地すべり・斜面崩壊におけるすべり面あるいはせん断ゾ−ンの形成を再現させ,固相から液相に変化する過程を力学的要素(せん断応力,過剰間隙水圧,せん断変位/速度,体積変化)の計測,及び流動状態の観察とビデオ撮影による速度分布を計測し,せん断ゾ−ンの形成・発達,粒子の配列・破砕過程を観察して,流動化構造の形成及び高速地すべりの運動機構を解明する。

2)現時点の研究成果の中で特に特徴的なことは

(a)地震降雨時発生した高速地すべりは崩壊後の運動に伴う土砂の液状化或いはすべり面液状化によったものが多い。即ち,液状化現象が高速運動の原因であるが,崩壊の結果でもあること。

(b)崩土において液状化現象となる水圧の発生・消散は,斜面の傾斜,地すべり土塊の初期密度,土塊厚さ,すべり面付近土塊の破砕性及び粒度分布,地下水位の状態などに影響されること

(c)せん断ゾ−ンにより形成されたせん断ゾ−ンの厚さはせん断速度に関係ないがせん断ゾ−ンにおいて土粒子の分布はせん断速度の変化に伴って異なること。

3)今後の研究の方向性は

・再滑動型地すべりの危険度評価と被害軽減化対策を確立されること

  せん断ゾ−ンの形成と地すべりの高速運動との関係を解明する

  降雨による地すべりの発達過程及び発生時間を高精度で予測すること

  大規模地すべりに対する長期観測のための観測機器の開発

(2)自然遺産地区の地すべり危険度評価と管理に関する研究

1)今取り組んでいる研究概要

(a)ペルー マチュピチュ遺跡の地すべり

(b)中国 西安市華清池(楊貴妃宮殿)裏山の驪山斜面の地すべり

2)現時点の研究成果の中で特に特徴的なことは

(a)現在,地表面変位の観測を実施しているところである。

詳細は,国際地すべり学術誌「Landslides」のC101-1参照

(b)電子式長スパン伸縮計にて変動観測中である。

3)今後の研究の方向性は

・土石流警戒避難に対する組織の構築

1001000年以上のオーダーの斜面変動の長期予測

・レーダー干渉波を用いた斜面計測システムの適用

・途上国における地すべり危険度軽減のための教育,人材開発

 

(3)破砕帯の結晶片岩地すべりの移動観測に関する研究

1)今取り組んでいる研究概要

(a)徳島県 善徳地すべり,西井川地すべり他,結晶片岩地すべりの長期移動計測および地下水観測を継続的に実施する

(b)2004年台風10号により誘発された徳島県阿津江地区大規模深層地すべりの変動に関する計測研究

 (1)地すべりの移動変位を計測し,巨大地すべりの崩壊前兆現象を把握する。

 (2)すべり面付近から採取した供試体に対して,リングせん断試験を行い,長距離せん断変位時のせん断強度の変化を解明する

 (3)現地観測と室内実験の結果から大規模深層地すべりの変動メカニズムを解明するとともに地すべりの運動範囲等を予測する。

2)現時点の研究成果の中で特に特徴的なことは

(a)各種学会等で発表しているので,割愛。(別紙論文リスト添付)

(b)阿津江地すべりは,再滑動型地すべりであり,台風10号以降変動が続いている。移動土塊は透水性が良く,降雨との相関が顕著であり,降雨毎に変動が加速することから,降雨量により,変動予測が期待できる。

3)今後の研究の方向性は

(a)常時変動している地すべりを対象とすることで,大学院生,社会人および海外からの研修生等に対して地すべりに関する教育・人材育成のプログラムとして実施してゆく。

(b)地すべりの発生機構を解明すること。地すべり土塊の全体の密度変化と移動特性の関係を解明すること。地震時の山地災害を軽減する方法を提案すること。

 

3.  民間企業との共同研究について

1)今後予定しているテーマ

・ユネスコ/京都大学/ICL(国際斜面災害研究機構)によるUNITWIN計画の一環として,ICLへの民間企業の参画を推進することから,IPL(国際斜面災害研究計画)に位置付けられるあらゆる技術開発・研究

  リングせん断型地すべり再現試験機を活用した研究

  レーダー干渉波を用いた斜面計測システムの適用

2)その他に、現在どのような技術問題(ニーズ)がありますか?

(1)技術開発

・監視と早期警戒

・ハザードマップ作成、脆弱性および危険度評価

(2)重点地すべり:メカニズムとインパクト

・巨大災害を引き起こす地すべり(降雨・地震・火山活動・河川浸食・人的活動、これらの組み合わせによる。津波等)

・遺産を脅かす地すべり(例:マチュピチュ、バーミヤン、CordilleraBlanca)

(3)能力開発

・人間・組織能力の強化(専門家の養成、研究機関の開発、地域での実働等)

・情報・知識の収集・発信(斜面災害危険度の認知文化の発展)

(4)軽減、予防、復興

・予  防

災害予防力の強化  地域機関の能力強化

予報・早期警戒    災害復興計画の整備

・軽  減

山地保全方法  適切な土木技術  不適切な開発の制限

土地利用管理などに関する政策・計画策定メカニズムの開発

監視、警報システムの推進

・復  興

復興の努力と斜面災害軽減手法との統合  二次的地すべり災害の防止

災害を受けたコミュニティーと地域政府の参加による、斜面災害復興への努力と

(心理的、社会的、および健康面を含む)計画の実施。

持続可能な復興を保障する長期的支援の提供。

---2006東京行動計画より抜粋 http://landslide.dpri.kyoto-u.ac.jp/2006-Tokyo-Action-Plan-J.pdf

3)今後、民間に対してどのような技術の開発を望みますか?

IPL(国際斜面災害研究計画)に位置付けられるあらゆる技術

 

4)共同研究の手続きの方法

特にありませんが,いつでも歓迎します。

現在,別紙(第1回斜面防災世界フォーラムのBulletin)の通り,IPLを推進しているので,その中で一緒に共同研究できることが最適です。

 

4.  施設の利用方法

1)地すべりに関するどのような施設がありますか?

・徳島地すべり観測所

  各種地すべり再現試験機(17号機)

  その他(RCLパンフ参照 http://landslide.dpri.kyoto-u.ac.jp/pamphlet.htm

2)利用頻度はどの程度ですか?

地震関係の研究者の利用頻度が高まってきた。

3)施設利用の申込み方法(利用可能であれば)

RCLまで連絡ください。

 

5.  各研究員について

1)佐々恭二 教授

:斜面災害研究センター長(防災研究所地盤研究グループ教授)

経    1993/2,京都大学防災研究所教授

:地すべりダイナミクス,世界地すべり情報解析研究

:高速長距離運動地すべりの発生・運動機構,地震時地すべりの発生機構,地すべり再現試験機の開発,文化遺産地区の地すべり危険度評価の研究,大規模地すべりの前兆現象判定と地すべり災害予測

受賞・学術賞:地すべり学会論文賞,国際林業研究機関連合会議賞,ペルー文化庁マチュピチュメダル

:(社)日本地すべり学会理事,ICL会長,UNITWIN共同計画「社会と環境に資するための斜面災害危険度軽減」プログラムコーディネーター,"Landslides"編集委員長

 


2)福岡 浩 助教授

:防災研究所地盤研究グループ

斜面災害研究センター 地すべりダイナミクス研究領域助教授

経    1996/4,京都大学防災研究所助教授

:地すべりダイナミクス

:地震時地すべり再現試験機を用いた地震時地すべりの発生・運動メカニズム,高速高圧リングせん断試験機を用いた高速長距離運動地すべりの発生・運動機構,GPSを用いた地すべり移動観測法と斜面健康診断構想,三次元せん断変位計を用いた結晶片岩地すべりの移動観測,地すべりの空間分布・規模-頻度関係のフラクタル構造

3)末峯 章 助教授

:防災研究所地盤研究グループ

斜面災害研究センター 地すべり計測研究領域助教授(徳島地すべり観測所)

経    1987/12,京都大学防災研究所助教授

:地すべり計測

:結晶片岩地すべりの長期移動計測および地下水観測

 

4)汪 発武

:防災研究所地盤研究グループ

斜面災害研究センター 地すべりダイナミクス研究領域助手

経    2004/6,京都大学防災研究所助手

:地すべりダイナミクス

:破砕性地盤における地すべり運動機構及び運動範囲予測法の研究,斜面表層崩壊防止におけるアンカーの有効利用に関する研究,白山における甚の助谷巨大地すべり突発災害の前兆現象および運動予測,貯水池水位変動による地すべり発生機構の解明及び予測手法の開発

5)王 功輝

:防災研究所地盤研究グループ

斜面災害研究センター 地すべり計測研究領域助手

経    2003/11,京都大学防災研究所助手

:地すべり計測

土砂の流動化の発生機構に関する研究,流動性崩壊のメカニズム

 


6.  最後に

1)民間企業に期待することは何でしょうか

特にありませんが,ICLに参画され,国内にとどまらず国際社会にも貢献願いたい。

2)斜面防災対策技術協会のホームページを見たことはありますか

あります。

3)あればその感想を

良くできていると思います。

4)斜面防災対策技術協会に期待することは何でしょうか

日本の高い斜面防災対策技術を国内のみにとどめず,斜面防災面のニーズの高いアジア,ラテンアメリカ等の斜面防災により貢献していただきたい。

また,斜面防災に関する世界的協力活動に,より積極的に参画願いたい(まずはICLに会員機関として参画されることを望みます)。

ありがとうございました。

<取材後記>
 佐々教授ならびにセンター所員の皆様には,非常に熱心にセンターの紹介をしていただきました。教授は,特に,広く国際社会への貢献に向けて,協会の
ICLへの参画を熱望されておられます。協会活動も,今後国内から国際へのニーズが高まってくると思いますので,本腰をあげて検討する必要があるのではないかと考えています。