1.  
全般

1)   雪崩・地すべり研究センターとしての研究目的は何ですか?

自然条件の厳しい豪雪地帯では、冬期には雪による災害に悩まされ、融雪期には地すべりなどの土砂災害が多発し、人家、田畑、道路などに甚大な被害を与えてきました。このような背景から、昭和35年に地すべり対策事業の推進と技術的向上を図る「全国地すべり・がけ崩れ対策協議会」の前身「全国地すべり対策協議会」、特に新潟県知事の強い要望に基づき新潟県新井市に「新潟地すべり試験所」が設置されました。
 昭和37年には「新潟試験所」、さらに平成17年度に「雪崩・地すべり研究センター」に改称され、現在、雪国における社会的基盤整備のための試験・研究をおこない、地域の実情に即した地すべり災害、雪崩災害などの防止に関する様々な研究開発、技術的な指導・助言を行っています。現在は、地すべり研究部門と雪崩研究部門の2部門から構成されています。
 

 

2)   土木研究所(土砂管理研究グループ)と雪崩・地すべり研究センターとの研究面での役割分担は?

平成16年10月の新潟県中越地震には未曾有の土砂災害が発生し、土砂災害分野の役割が非常に高まっていることを踏まえ、雪崩及び地すべりにかかわる研究開発、技術指導に関する業務に特化し、つくばの土砂管理研究グループとの連携を強化し効率的に業務を実施することを目的に、「雪崩・地すべり研究センター」に組織改編しました。土砂管理研究グループ(地すべりチーム)が主にダムや道路の地すべりを扱うことが多いのに対し、当センターは特に積雪・融雪地帯の地すべりと雪崩を対象としていることが特徴です。

また、土木研究所寒地土木研究所雪氷チーム(北海道)とも連携し点検要領の作成等に取り組んでいますが、寒地土木研究所が主に乾雪や地吹雪を扱うのに比べて、当センターでは湿雪を扱うのが特徴です。

 

3)   地すべりに対するアプローチで他の研究機関との違いはありますか?

近年北陸地方で多発する地震災害(平成16年中越地震、平成19年能登半島地震、中越沖地震)をフィールドとして、地震による地すべり発生メカニズムの解明に重点的に取り組んでいます。

また、融雪地帯である地域特性を生かし、地下水調査手法の開発や、地下水排除施設を中心とする地すべり対策工の適正な維持管理手法の開発にも取り組んでいます。

 

4)   主な活動場所(事務所内?フィールド?)はどこですか?

 以前より、新潟県内の猿供養寺、沖見の両地区を地すべりの試験フィールドとして、地すべり現象の解明、観測・調査・施工方法の研究を行っています。また、最近発生した中越地震に関連して新潟県長岡市の芋川流域やその周辺の地すべり地をフィールドとして、地形・地質解析等の研究を行なっています。

 積雪期においては、新潟県糸魚川市棚口地区や長野県白馬村八方地区において、大規模雪崩の継続観測を実施しており、現地での計測・調査に重点的に取り組んでいます。

 また、地すべりや雪崩災害の発生時には、要請に基づき現地調査や技術指導に赴いており、

各行政機関等への指導・助言を行なっています。

 

5)   成果の発表はどのような機会におこなっていますか?

 各種の研修会、セミナーを主催、共催し、研究成果を積極的に発表しています。また、地元の新潟県妙高地区では、新潟県ともタイアップして研究の推進体制を組んでいます。研究成果については、地すべり・砂防関係や雪・雪崩関係の各種学会、シンポジウム、セミナーで発表しているほか、雪崩・地すべり研究センターたより(季刊)や研究センターホ−ムページへアップしています。

また、防災訓練や一般向け講演会などで住民対象の広報・啓発活動にも取り組んでいるほか、海外から来られる研修生を対象とした地すべり技術研修等も随時実施しています。

 


2.  
個別研究課題について

 各研究の進捗状況と今後の方向性について

(1)地すべりに関する研究

1)今取り組んでいる研究概要(主なもの)

 

@     「地震に伴う地すべり土塊の強度変化特性に関する研究」:主に中越地震で発生した大規模土砂災害を対象とし、地震による地すべり多発原因を解明し、地震による地すべりの地すべり危険度評価手法の研究を行っています。

A     「地すべり地における地下水調査技術の高度化に関する研究」:従来の食塩を用いた地下水調査では地下水中への不均一な溶解、土中沈着、環境負荷等の問題があり、それに変わる調査手法として、温度センサーを用いた加熱式地下水検層や、溶存酸素をトレーサーとした酸素溶解式地下水追跡の開発を行っています。

B     「地すべり地における地下水排除施設の適正な維持管理に関する研究」:地すべりの原因である地下水を排除する施設はこれまでに多く設置されてきました。地下水排除施設の維持管理の実態を調査し、適正な維持管理手法を提案します。

 

2)現時点の研究成果の中で特に特徴的なことは

 

@     レーザープロファイラー(LP)を用いた地震前後の詳細な地形解析と地質構造解析を組み合わせて、地震時の斜面の挙動を詳細に明らかにできる。また、動的リングせん断試験による土質特性を含めた合理的な発生機構解明と安定度評価を行なっています。

A     フィールドでの実用化試験の実績を増やしており、技術の標準化、汎用化を計ります。

B     既往の地すべり施設のライフサイクルコスト(LCC)の観点から、適切な維持管理手法の開発を行っています。(スライムの簡易な手法による観察など)

 

3)今後の研究の方向性は

地すべり対策事業は、地元住民の生活と密接な関係にあり、共生の観点から地すべり地の調査・対策・管理のあり方を提案します。そのためには、(専門家だけではなく住民も参加できるような)安全で効率的に点検・維持管理できる、より一層の工夫が必要と考えます。

 

(2)雪崩に関する研究(主なもの)

1)今取り組んでいる研究概要

 

@「大規模雪崩の動態観測による雪崩の発生予測に関する研究」:新潟県糸魚川市の棚口地区や長野県白馬村八方地区でのCCTVカメラや気象観測装置よる動態観測などから、雪崩の映像ビデオ解析とLPによる雪斜面の形状把握が可能となり、定量的な雪崩シミュレーションにより、効率的な施設配置計画に生かしたいと考えています。

A「豪雪時における雪崩危険度判定手法に関する研究」:平成18年豪雪では、各地で雪崩災害や集落の孤立が発生し、大きな社会問題となりました。本研究では、LPデータや現地の積雪深分布から現場で危険度や雪崩到達範囲の想定ができ住民避難や交通規制に対処できるよう、研究開発を行っています。

2)現時点の研究成果の中で特に特徴的なことは

雪崩調査の特徴として、調査の時期・場所の制約が大きい(行けない、見られない)、雪の質・量が時間変化しかつ季節変化で消滅する、場所ごとの発生特性(乾湿など)が異なることがあげられます。また、近年防災知識など、地域の防災力の低下が懸念されます。

3)今後の研究の方向性は

 地域特性(特徴的な災害形態)を把握して、形として後世に伝承することが特に必要です

(新潟、富山のホウ雪崩―大規模な煙型乾雪表層雪崩―や棚口雪崩災害など)。「雪崩危険箇所点検マニュアル(案)」を作成し、関係者に公表します。

 


3.  
共同研究について

1)今後の方向性、予定しているテーマ

雪崩・地すべり研究センター単独としての共同研究の予定は今のところありませんが今後検討して行きたい。現場で実施する研究テーマを主体に考えています。

 

  2)今度、どのような問題の解決が望まれますか?

既存施設の適正な維持管理に関すること。

 

  3)今後、どのような技術の開発が期待されますか?

現場で判断の支援ツールとなる技術開発。

 

4)民間企業に期待すること

土木研究所の各研究課題に関連した技術開発を期待します。

 

5)共同研究の手続きの方法

土木研究所ホームページで確認してください。

 

 


4.  
施設の利用方法

1)斜面防災・雪崩に関するどのような施設がありますか?

土質試験室(リングせん断の動的試験など)

低温実験室(雪崩実験)

白馬、棚口での雪崩観測施設(気象、映像、振動計測など)

 

2)利用頻度はどの程度ですか?

雪崩観測施設は冬季間常時計測しています。

土質試験は、必要な場合そのつど実施しています。

 

3)施設利用の申込み方法(可能であれば)

利用可能ですので、直接お問い合わせください。

 


5.  
過去の研究内容の入手方法

土木研究所ホームページ上で、検索・閲覧できますので、利用してください。また、最近の研究成果については、雪崩・地すべり研究センターのホームページ上でも論文名等公開しています。

 

 


6.  
各研究員について(平成2041日現在)

石井靖雄 センター所長(上席研究員)

専門分野:

担  当:研究総括

 

丸山清輝 総括主任研究員

専門分野:地すべり研究部門

担  当:地震時における再活動地すべり地の危険度評価に関する研究

    地すべり地における地下水排除施設の適正な維持管理に関する研究

     地すべり地における地下水調査技術の高度化に関する研究

 

伊藤陽一 研究員

専門分野:雪崩研究部門

担  当:豪雪時における雪崩危険度判定手法に関する研究

     大規模雪崩の発生予測に関する研究

 

ハスバートル 専門研究員

専門分野:地すべり研究部門

担  当:地震時における再活動地すべり地の危険度評価に関する研究

 

鈴木聡樹 交流研究員

専門分野:地すべり研究部門

担  当:地震時における再活動地すべり地の危険度評価に関する研究

 


7.  
最後に

1)民間企業に期待することは何でしょうか

日頃の研究活動を通じて、地すべり・雪崩部門とも他の研究機関や民間企業と技術交流を行っています。現場での課題や新しい技術などについて、積極的に提案して欲しいと思います。特に地すべり学会や斜面防災対策技術協会は、産学官の連携に積極的と感じています。

 

2)斜面防災対策技術協会のホームページを見たことはありますか

あります。

 

3)あればその感想を

技術情報が充実しているようです。

 

4)斜面防災対策技術協会に期待することは何でしょうか

協会誌等を通じて、積極的に情報発信をお願いします。よい発想は良い現場から生まれるので、現場の良い事例発表に期待します。

 

 


8.  
取材後記

去る1月、比較的暖冬小雪だった冬期に、新潟県妙高市の雪崩・地すべり研究センターにホームページ委員会の研究室取材に行ってきました。時節柄お忙しい時期にもかかわらず、突然の取材依頼に対して、快くお引き受けいただき、また質問事項に対する回答や資料を用意していただくなど、大変お世話になりました。取材当日は雪崩研究部門の方は現場に行っておられましたが、地すべり研究部門の方は顔をそろえておられ、またご多忙の中、花岡所長(当時)にはわざわざ時間を割いて取材に応じていただいたばかりか、研究センター内部の土質試験室などご案内いただき、ありがとうございました。

平成20年4月の人事異動で花岡前所長は高速道路総合技術研究所(NEXCO総研)へ転出され、後任の石井所長が着任されました。取材記事の研究員紹介は、勝手ながら平成20年4月現在のお名前とさせていただきましたので、ご了承ください。

今後とも、ご期待に応えられるよう我々も技術研鑽に励み、また現場で議論させていただく機会を楽しみにしております。ありがとうございました。

(大河原)