現地踏査
制作:応用地質(株)

1.現地踏査の概要

 地すべりの現地踏査は、予備調査結果を踏まえて調査計画や応急対策計画の立案のために行うものであり、地すべりの発生・運動機構とその影響について概略把握を行う(-1

現地踏査結果は、地形判読調査結果などとともに、地表地質図、地すべり分布図などにとりまとめ、精査計画の立案のための基礎資料とする。



-1  地すべり調査の概要 

         (建設省河川砂防技術基準(案)同解説調査編;日本河川協会より)

2.現地踏査のポイント

現地踏査は、以下の点に留意して行う必要がある。

(1) 地すべり範囲及び危険範囲の推定

地すべり地周辺の地形図を入手し、対岸の高所等からの遠望によって地すべり地及び周辺の地形を観察する。これらの観察結果と地すべり地内に発生している亀裂、隆起等の徴候から、地すべりの活動範囲、将来、活動の恐れがある地域、被害の及ぶ範囲、保全対象等を推定する。

(2) 地質踏査(地質性状と地質構造)

地すべり土塊を構成している物質の種類や性状を調べることによって、その地すべりの新旧、運動特性の推定に役立てられる。また、周辺露頭の基盤の性状を調べ、その地質構造上の地すべりの特性を推定することも可能である。

a)地質分布と岩盤性状の確認

踏査範囲における地質分布を把握するとともに、岩種・岩質、層理・片理・節理の状態、風化・破砕の程度、亀裂の有無・開口等の状態および流入粘土等を確認する。

b)構成土塊の性状の確認

分布および礫(径・形状・岩種等)・基質(色調・粘土等)の状態などを確認する。

c)地質構造の確認と推定

露頭の走向・傾斜を確認し、流れ盤・受け盤、褶曲および断層・破砕帯などを推定する。

d)湧水・湿地等の確認

湧水、湿地等の分布から地下水の状態を推定する。

(3) 地形調査(微地形や大地形による地質構造の推定)

地形調査では、主として微地形や大地形を観察することによって地質構造の推定を行うとともに地すべり地形を確認する(現況調査 地形判読の項参照)。

a)全体の地形の把握

斜面勾配、緩斜面、遷急線、遷緩線および段差地形などについて俯瞰的に観察する。この際、地すべりの位置および範囲を確認し、斜面の最急傾斜方向などを考えて地すべりの運動方向を推定する。

b)微地形の確認

地形の凹凸、沢地形および浸食状況などの微地形を現地で確認し、地すべりの範囲や運動状況を推定する。

(4) 地下水の分布の把握

地すべり地内外の池、沼、湿地及び湧水点について調査する。池、沼の場合は水位、湧水点では湧水量がそれぞれ降雨とどのような関係を持っているかを調べることによって、その水が浅い地下水に起因するものか、あるいは深い地下水に起因するものかを推定することができる。

(5) 運動形態(各種の徴候による)の推定

主として微地形、主クラック、側方クラック、末端クラックや道路、家屋及び石垣等の構造物の変状、幹の曲がり等植生の育成異常を調査して、地すべりの運動形態や方向を推定する。

(6) 誘因の推定

地すべり発生当時の気象や運動形態等を検討して誘因を推定する。

次のようなものが誘因である場合が多いが、単一の誘因によるものではなく、複数の誘因により発生することもあるため、慎重な検討が必要である。

@ 自然的誘因

1) 降雨等によるもの(長雨、集中豪雨、融雪、河川の浸食等)

2) 地震等によるもの(火山活動、地震による地下水系の変化等)

A 人為的誘因

1) 土工等(切盛土、トンネル掘削等や水路等からの漏水)によるもの

   市街地化した場所の谷埋め盛土,地表水、地下水処理の不備など

2) 斜面の水没によるもの(ダム貯水池周辺、天然ダム等)

(7) 今後の地すべり運動予測

今後の運動について踏査のみで予測することはかなり困難であるが、一般的に岩盤・風化岩地すべりで、ほぼ一様なすべり面勾配を持つ地すべりでは滑落の可能性が大きい。末端が河床より高い位置にある場合は崩壊の危険性がより大きい。

(8) 地すべり運動の活発化に伴う被害区域と被災の予測

前項までの調査において地すべりの活動が活発化する可能性が高い場合には、その地すべりの被害区域を想定し、この区域に対して、必要な措置(警戒・避難体制の確立等)を早急に講じる必要がある。被害区域は、地すべり周辺の地形をよく把握し、特に地すべりの上部斜面への拡大、地すべり末端部の二次的な地すべりの発生などに留意する必要がある。

また、地すべり土塊の滑落による土石流化の可能性やその影響範囲、天然ダムの可能性の有無、天然ダムの決壊に伴う被害発生範囲の予測を行う必要がある(図-2




-2 地すべり被害想定区域の範囲例

     (地すべり対策事業の手引き;全国地すべりがけ崩れ対策協議会より)

(9) 応急対策についての検討

現地踏査の結果、地すべりの発生機構、運動機構がほぼ推定され、その活発化や滑落が予測される場合には、地すべりに対する監視体制や避難体制、応急対策を検討する。また、必要に応じて、リアルタイムで地すべりの挙動を監視できる計器の配置等の緊急調査計画を立案する。

(10)地すべり分布図の作成および詳細調査計画の立案

地形解析および現地踏査等で明らかとなった、地形、地質、地すべりの特性を地すべり分布図などにまとめる(図-3)。地すべり分布図には、保全対象も明示し、それらと地すべりとの位置関係なども明らかにする。また、必要に応じて地すべり地の推定断面図を作成する(図-4)


以上の情報をもとに、精査の必要な地すべりを選定し、適切な調査計画を立案する。


参考文献

1) (独)土木研究所土砂管理研究グループ地すべりチーム:地すべり防止技術指針及び同解説(提案),土木研究所資料第4077 号,2007

2)(社)日本河川協会:建設省河川砂防技術基準(案)同解説調査編,山海堂,1997

3) 全国地すべりがけ崩れ対策協議会:地すべり対策事業の手引き,全国治水砂防協会,2000

4) 渡正亮,酒井淳行:地すべり地の概査と調査の考え方,土木研究所資料第1003 号,1975

5) 国土交通省河川局治水課:貯水池周辺の地すべり等調査と対策技術指針・同解説(案),2009