取材日時 | 令和5年11月2日(木) 10:30~12:30 |
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取材場所 | 〒224-8551 神奈川県横浜市都筑区牛久保西3-3-1 |
ホームページ | https://www.comm.tcu.ac.jp/satogo_lab/ |
出席者 | 東京都市大学環境学部環境地理学研究室 佐藤剛教授、山口朱莉さん(学生) 斜面防災対策技術協会ホームページ委員 井上宏、北原哲郎、土佐信一 |
回答1:
地理学は文理融合の学問であり、その研究内容は多岐にわたります。研究室では自然地理学の一分野である地形学に主眼を置き、私たちの生活場である地形がどのように形成されてきたのか時空間的に明らかにすることを試みています。また地形情報からハザードマップも作成しています。
一方で人文地理学の視点も大切にしています。例えばハザードマップを活用するには、マップ上にある家屋やインフラがどのように分布するのか、そして防災力を向上させるためにどのように社会を変革していくべきなのか考えていく必要があるからです。
本研究室では地表で起こる自然現象そして人文現象を鳥の眼で視て(リモートセンシングを通して)、そして虫の眼で視て(フィールドワークを通して)解明しています。
回答2:
群馬大学地盤工学研究室の若井明彦先生と国内のみならずベトナムやタイをフィールドとして地すべり防災研究を進めています。若井先生と協働することで斜面の地形発達を地盤工学からのアプローチでも評価していただいています。なお,東京都市大には4月に着任したばかりで、学内における共同研究はまだ始まっていません。一方で本学のルーツは武蔵工業大学ということもあり、土木工学,情報学そして環境学などにおいて素晴らしい研究実績をもつ教員が多数在籍しています。こうした方々と連携することで新しい研究シーズを発掘していきたいですね。
回答3:
学生のころから一貫して地形学に取り組んできました。当初は地すべり地形判読を行い、年代資料をもとに時間軸上で地すべり地形発達を復元することに取り組んできました。日本地すべり学会などでの活動を通し、さまざまな分野の方々と繋がるようになりました。近年は地形学者だけではなく、他研究分野との共同研究を大切にしています。前述したように地盤工学研究者と協働することで、リアルタイムでの斜面の危険度を示す早期警戒システムの開発(例えば若井先生が主導するTAG_FLOWモデルの活用)といったことにも挑戦しており、アジア地域などでの活用を目指しています。
回答4:
土砂災害が発生した場所がフィールドになりますので、どこへでも出かけます。近年、集中して調査を行っているのは、愛媛県松山市にある興居島(ごごしま)、熊本県の阿蘇カルデラ、タイ北部やベトナム中部の山岳域になります。また長期間携わってきたのはホンジュラスの首都テグシガルパです。ここでは、JICAのプロジェクトで地すべり地形分布図を作成してきました。
回答4:
日本地すべり学会をはじめ、さまざまな学会誌や雑誌で公表しています。
現在取り組んでいる研究内容や今後の方向性についてお聞かせ下さい。
回答1:
高精度のDEMを用いた地形表現図が作成できるようになり、これをもとに詳細な地すべり地形判読が行われるようになりました。地形判読ツールの充実化が急速に進んでいます。一方で、地形判読の専門家の高齢化などソフトの面での課題も浮き彫りになっています。この課題を克服するためには、熟練判読者の技術を後進に理解しやすい形で伝える手法を開発し、高度な判読技術をもつ人材を確保していくことが重要となります。そこで地形表現図とアイトラッキング技術を用いて、熟練者の視線追跡データから地形判読プロセスの可視化を試みています。アイトラッキング技術は、消費者行動や技術伝承など多方面での活用が進んでいますが、次のサイトなどが参考になると思います。
※取材者も地すべり地形図をもとにアイトラッキングを試行させていただき視線追跡の解析をしてもらいました
回答2:
アイトラッキングのデータが収集されていくなかで、地形判読のスペシャリストのコツが分かるようになってきました。また、そのことにスペシャリスト自身も気づいていなかったこと(無意識で行っていたこと)も多くあることが分かってきました。こうした視線動画は、教材としても使えています。
回答3:
収集データを教師データとして、AIが地形判読のTipsを判読者に提供するシステム開発も試みていく予定です。
回答1:
私自身は中南米のホンジュラスで、地すべりハザードマップの作成やその作成方法に関する技術移転をJICAの事業として行ってきました。また,担当するゼミの学生(山口さん)はベトナム中部を対象に豪雨を誘因とした崩壊分布図を作成し、降水量や地質との関係から崩壊発生プロセスを把握することに取り組んでいます。先日行われた第6回都市大研究プレゼンコンテスト(6th TCU R-PresCo)において研究成果を紹介した彼女は最優秀賞を獲得しました。
回答2:
ベトナムでは、2020年に発生した台風で、山岳部において多くの斜面崩壊が発生しました。崩壊の状況について、光学衛星画像を使い斜面崩壊分布図を作成するとともに、JAXAのGSMaPで積算雨量を重ね合わせたところ、花崗閃緑岩(素因)の分布域で局地的に雨量(誘因)が多くなった箇所が崩壊の多発地になっていることが明らかになりました。また、大規模な地すべり性斜面に囲まれる首都テグシガルパを対象に作成したハザードマップは今,テグシガルパ市政府の防災計画の基図として活用されています。
回答3:
ベトナムでは、XバンドMPレーダー雨量計の設置が日本の支援で進んでいます。今後はこうしたデータを用いて、豪雨を誘因とした斜面崩壊発生予測と早期警戒システムの社会実装を進めていき、地域の減災に貢献したいと考えています。
※この研究は3年生の学生の方にプレゼンしていただきました。
プレゼンの中でみせてもらった研究概要のポスター
回答1:
シルクロード関連遺跡として世界遺産にもなっているキルギスのアク・ベシム遺跡を対象に、地形学の観点からのアプローチを試みています(ジオアーケオロジー)。具体的には地形分類図上に遺跡の位置関係を重ね合わせることで、地形要素と都市や城砦の立地特性等の関係を考察しています。本研究は、帝京大学文化財研究所(シルクロード学術調査団)とともに進めているものです。
回答2:
アク・ベシム遺跡では、城壁の一部が変形しており、近傍の活断層で起きた地震が影響しているものと考えています。城壁については、FEM解析で地盤変形との関係についても整理ができ変形プロセスの解明が進んでいます。
回答3:
地震活動等の反復性などを明らかにすることができれば、将来のキルギスの地震防災などにつなげていくことができると期待しています。もちろん山岳国であるキルギスの地すべり研究も進めていかなければなりませんね。
回答1:
協会員でもある国土防災技術株式会社の方たちと、愛媛県松山市にある興居島で表層崩壊のモニタリング等の研究を行っています。伸縮計の設置などでの協力もしていただいております。今年、伸縮計設置した場所で崩壊が発生しました。この成果は近いうちに公表します。
また、協会員の企業には学生のインターンシップなどを通してもお世話になっています。たいへんありがたいです。
回答2:
受託研究・共同研究等の産学連携については、窓口として大学の産官学交流センターで受け付けています。
http://www.csac.tcu.ac.jp/about/index.html
1件が50万円以下の簡易受託研究であれば、手続きも容易に進められます。
回答1:
スタッフとして客員研究員の方が一人います。また、大学院生(社会人ドクター)が2名3年生が9名が在籍しています。本学は社会人ドクターを積極的に受け入れています。院生の一人はJICAから来ており、海外における土砂災害の課題等に関する研究を進めています。
回答1:
大学と協会で接点を持つ機会は少ないと思いますが、学生向けの共同就職ガイダンスみたいなものを企画してもらえるとありがたいです。
新型コロナもようやく落ち着き、ホームページ委員会も久しぶりに研究室取材を再開することになりました。第一弾は東京都市大学ということで、原点に立ち返り純粋に研究室の取材となりました。
最寄りの地下鉄駅を降り、住宅街の中をキャンパスに向かって歩いていくと、周辺の風景と調和した、一見マンションかと見間違うような佇まいの校舎が見えてきました。学内は中庭も綺麗に整備されており、こうした落ち着いた環境でキャンパスライフを過ごせる学生を羨みつつ、自身の学生生活はどうだったかなと振り返りながら校舎のエレベーターに乗り込みました。
今回の取材は、令和になってはじめてということもあり、やや緊張気味に研究室の扉をノックしましたが、当初の緊張が嘘のように話は弾み、佐藤先生に淹れていただいたコーヒーを飲みながら、リラックスして…というより雑談も交えて楽しく和やかに取材をさせていただきました。予想はしていましたが、佐藤先生の人柄がそのような空気をつくってしまうのでしょう。
取材には、研究室の学生の方にも同席してもらい、自身の研究についてプレゼンも披露してくれました。とても3年生とは思えないほどしっかりしていて、研究に対する取組み姿勢や内容が立派で感心させられました。さらに、アイトラッキングについても手ほどきを受け、実際にチャレンジさせてもらう機会もつくっていただきました。
このように優秀な学生が多く在籍しているのもこの研究室の特徴なのかもしれませんが、将来非常に期待できると思いました。
ご多用のところ、快く取材に応じていただいた佐藤先生や学生の方には、あらためて感謝申し上げます。ジオアーケオロジーなど興味深い研究も多く、非常に参考になりました。
(文責:H.I)
創立75周年を記念して発刊された75年史と紙面に載る横浜キャンパス(旧称武蔵工業大学).2029年には創立100周年を迎える東急グループの一翼を担う大学である
快く取材に応じていただいた佐藤剛教授
取材風景(研究課題のプレゼンを行ってくれた学生)
アイトラッキング用グラスを装着して地すべり地形を判読している様子
アイトラッキングによる視線データの解析結果
(上:スキャンパス 下:ヒートマップ)
アイトラッキング用のグラスとレコーディングユニット