新技術紹介

吹付工

制作:日本エルダルト(株)

1.吹付工とは

吹付工とは、モルタルやコンクリートで崖面や法面を覆う工法である。風化等により劣化した崖面に対しては、外気や温度変化、浸透水の遮断効果が非常に高く、施工性も優れていることから、採用実績の多い工法の一つである。また、切土のり面やトンネル覆工にも広く用いられている。

その施行は、圧縮空気によってモルタルやコンクリートを高圧ホースまたはパイプを介して所定の位置まで搬送し、その打設,締固めは型枠を用いずに圧縮空気にて吹き付けることでなされる。

2.適用範囲

崖面不安定化の形態としては、

  • 浸食~崩落
  • 表層崩壊
  • 抜け落ち
  • 地すべり性崩壊
等が挙げられる。このうち、吹付工単独で対応できるのは、浸食~崩落、表層崩壊、抜け落ちの各形態で、施工時においてある程度の安定性を保持していることが条件となる。また、不安定性が顕在化し、崩落によって小康状態に移行した崖面に対しても適用範囲となる。

図-1 吹付工の適用が可能な不安定化の形態(1

図-1に示す不安定化のうち、明らかに不安定性が顕在化しているものや、抑止力の導入が不可避なものについては、吹付工単独での対応は困難であり、別途併用工を計画する必要がある。

3.調査技術と留意点

吹付工単独で対応する場合には

  • 対象崖面がある程度の安定性を保持している
  • 抑止力を必要とする不安定土塊~岩塊が存在しない
ということが前提であり、それらを確認するための調査が必要となる。調査手法としては崖面の詳細踏査が基本であり、場合によっては風化深度や亀裂密度,構成地山の強度特性を把握するためのボーリング調査も有効性が高い。

崖面の詳細踏査時に確認すべきこととしては、

  • 崖面末端における崩落物の堆積状況
  • 植生および湧水分布
  • 浮き石や不安定岩塊の有無
  • 近隣斜面を含む崖面の崩壊履歴および崩壊形態
等が挙げられ、これらの結果から吹付工の適用性を総合的に評価する必要がある。

吹付工に期待される機能は、崖面の密閉による風化防止や浸食防止、吹付工の剛性による不安定化物の拘束が主たるものであり、この機能によって必要とする安全性を満たすことができるか否かを評価することになる。

ただし、評価手法に定量的な計算手法等は確立されておらず、定性的な判断によらざる得ないことから、計画にあたっては十分な経験とリスクマネージメント能力が要求されることになる。

4.設計一般

4-1.吹付工の分類

吹付工の施工方法は湿式と乾式に大別され、品質管理の容易性や施工性から一般には湿式で施工されることが多い。また、吹き付け材料によっては、以下のとおり分類される。

表-1 吹き付け材料による吹付工の分類(2

吹付材料は、対象崖面の状況や工事目的および施工条件等を考慮した上で選定する必要がある。また、気象条件や環境面についても十分に配慮しなければならない。

4-2.吹付厚

吹付工の厚さは、一般に以下の図等を参考にしつつ過去の実績や経験的判断に基づいて決定される。また、寒冷地の場合には凍結や凍上等を考慮した補強や基礎工の併用についても検討する必要がある。

吹付け厚

4-3.金網張り工

崖面の構成地質は不均質であり、風化の進行状況も不均一である。よって、吹付工には温度変化による伸縮クラックが入りやすく、これは吹付厚が薄いほど顕著である。このため、吹付工にはセメント硬化体に発生する亀裂の分散とはく離防止等を目的として、金網張り工を併用することが多い

金網は崖面になじみ良く張り、スペーサーを用いて吹付厚の1/2付近になるよう設置する場合もある。崖面に凹凸がある場合には菱形金網を使用し、平滑な場合には溶接金網を使用することもある。金網はアンカーピンによって固定し、その標準的な密度は1~2本/m2であるが、斜面勾配や吹付厚,斜面の凹凸状況によって適宜増やす必要がある。また、斜面の状況によっては鉄筋を格子状に配して補強する場合もある。

4-4.伸縮目地と水処理

施工対象面積が広く、平滑な場合には10~20mに1本の割合を目安として縦伸縮目地を設けるのが望ましい。また、吹付工には原則として水抜き孔を設ける必要がある。標準的には内径4cm程度のパイプを2~4m2に1箇所以上とし、湧水状況に応じて本数を増す等の対応をする必要がある。

湧水が著しい部分については開放型の工法選定が望ましいが、吹付工にて対応する場合には施工に先立ち防水マットや暗渠排水管等を使用して湧水を処理するか、水平排水孔や地下排水工等の排水施設の併用を検討する必要がある。

5.施工一般

5-1.施工準備

吹付工は崖面と十分に一体化させる必要があることから、密着性の低下要因となる浮き石や雑草木等を取り除き、圧力水やエアージェットにて十分に清掃する。また、崖面の端部や肩部は、雨水の浸入を防止するために15~30cmの筋掘りをして巻き込み、末端部は地山に接するところまで掘り込み、下部からのはく離を防止する必要がある。

5-2.吹付

  • ノズルは常に吹付面に直角になるよう保持し、適切な距離と吹付圧力を維持する。
  • 吹付は、モルタルやコンクリートが垂れ下がらない範囲で吹き付け、所定厚になるまで反復して吹き付ける。
  • 吹付は上部より漸次下部に吹き付け、はね返り材料の上には吹かない。
  • 次の場合には吹付作業を原則として行わない。
    1. 強い風で正常な吹付作業を著しく妨げる場合
    2. 気温が氷点に近く、適切な養生ができない場合
    3. 雨が激しく、吹付面からセメントが洗い流されるような場合
    4. 好天で風が強く、乾燥が著しい場合

5-3.養生

高温時は早期乾燥を起こしクラックが生じやすいので、保湿のため施工直後より養生シート等による被覆や散水、養生剤の散布等を行う。一方、寒冷地や低温時での吹付作業は、凍結防止のための保温シートが必要である。また、早期強度を持たせるための早強セメントも効果的である。

5-4.品質管理

吹付工の材料管理としては配合管理と強度管理が必要で、フロー値やスランプ試験,テストピースによる強度管理が行われている。吹付厚については検測ピンを埋め込むのが一般的である。

写真1 吹付工施行前 写真2 吹付工施行前

写真3 吹付工施行状況

引用文献等

  • (1 道路土工 のり面工・斜面安定工指針(1999) P23~29より抜粋
  • (2 最新斜面・土留め技術総覧(1991) ㈱産業技術サービスセンター P127を加筆
  • (3,4 同上 P128

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