新技術紹介

集水井工【点検・詳細調査と劣化診断及び長寿命化・機能回復手法の計画設計】

制作:日本基礎技術㈱

1.点検手法及び劣化診断

(1) 劣化及び損傷の原因と特徴

集水井工は、地すべり地内に直径3.5m程度の縦穴を鋼製ライナープレートや鉄筋コンクリート製セグメントで構築され、地下水排除工である集水・排水ボーリングを有した施設である。集水井工の主要部材として一般的に用いられる鋼製ライナープレート等は、経年的に腐食・破損が進行しやすい。また、地すべりや偏土圧等の外力による変形も生じやすい。

(写真-1)1)
写真1井筒、補強材の腐食・損傷・変形

(2) 点検手法

①計画・準備・資料収集

②事前調査

③集水井工全体の観察

④集水井工の点検

⑤周辺地盤の点検

点検結果の整理

図1 集水井工の点検手順

集水井工の点検において集水井内部は低酸素状態や有毒ガス滞留の可能性があり、日常点検は集水井内部へ立ち入らず地上部からの目視点検を中心に行う。なお、詳細調査は集水井内部に立ち入り点検するため、換気や照明設備、安全帯、ガス検知器等の安全対策を事前に検討、講じた上で実施する。

集水井工の点検単位は1基の集水井を対象として実施し、井筒、集水管(孔口部)、排水管(呑込口、吐口部)、底部コンクリート、地表部コンクリート、付帯設備(保安管理施設)および周辺地盤の状況について点検を行う。集水井工の点検手順について、図1に示す。

集水井工の点検の結果は、点検票に示された部位ごとの点検項目に対し、該当する変状の有無を記録、整理する。劣化や変状が確認された場合、該当箇所の変状レベルを区分し、要因や変状レベルを判断した理由も記載する。

総合判定においては点検表の劣化判断に基づき、4段階に区分し詳細調査や対策を検討する。

各構造の変状レベルの評価基準及び点検票については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

(3) 総合判定

点検票の劣化診断に基づき、集水井工に対する総合判定を行う。(表1)

表1 点検結果に基づく集水井工の総合判定と対応
対応レベル 総合判定 対応
  • 井筒、集水ボーリング、排水ボーリング、底盤コンクリート、地表部コンクリート、付帯設備、周辺地盤に変状レベル「c」が1つ以上ある場合。
  • 付帯施設の損傷などにより、第三者被害の可能性がある場合

【検討対策】

  • 必要な改修工事や応急対策措置について検討する。
  • 必要に応じて詳細調査を実施する。
  • 井筒、集水ボーリング、排水ボーリング、底盤コンクリート、付帯設備、周辺地盤に、同じ要因の変状レベル「b」が2つ以上ある場合。
  • 変状レベル「b」があり、過去の記録点検簿に比べ変状が進行している場合。

【要詳細調査】

  • 必要な詳細調査を実施する。
  • 井筒、集水ボーリング、排水ボーリング、底盤コンクリート、地表簿コンクリート、付帯施設、周辺地盤に変状レベル「b」が1つ以上有るが、相互の関連性及び進行性がなく、現状において施設の機能低下がないと判断される場合。

【経過観察】

  • 次回の定期点検時に異常箇所の経過観察を行なう。
  • 次回からの定期点検の時期・頻度を検討する。
  • 損傷、変状等がみられないもの。
  • 全ての点検項目が変状レベル「a」の場合。

【記録保管】

  • 定期点検を継続する。

総合判定については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

2. 詳細調査及び劣化診断

(1) 詳細点検

1) 目的

集水井工の詳細点検は、部材の劣化状況や集排水ボーリングの排水機能低下について確認・計測することにより、井筒詳細調査の必要性の判断および機能回復措置(補修、孔内洗浄等)の必要性を把握するために実施する。

2) 点検手法

詳細点検は、集水井工1基毎に整理する。損傷や変形等の状況を施設区分毎、調査方法毎に詳細調査票に記録し、井筒からの地下水の流入状況等を記事欄に記録するとともに状況写真も整理し添付する。

表2 詳細点検
詳細点検 点検概要
井筒点検調査
  • 井筒の劣化・損傷状況や変形状況を目視調査。変状が認められた場合は、簡易計測する。
  • RCセグメントブロック積みの場合は、ブロック結合部の開きや亀裂などを簡易計測する。
  • 個別箇所の変状、損傷で評価せず、井筒全体の変状レベルで評価する。
集水ボーリング点検調査
  • 孔毎に孔口の近接点検、排水量測定、検尺棒測定を行い、閉塞・排水状況を確認する。
排水ボーリング点検調査
  • 底盤コンクリートの水位を点検し、排水不良の有無を確認する。(排水量も計測する)
  • 呑口部の破損・劣化状況や検尺棒計測による目詰まり、閉塞を確認する。
底盤コンクリート点検調査
  • 井筒底部の土砂堆積状況、コンクリートの亀裂、傾きなどを点検する。
  • コンクリートの亀裂。クラック等の位置や深さなどを簡易計測する。
付帯(保安管理)施設点検調査
  • 天蓋やタラップ等の保安設備の、腐食・劣化状況を点検。
  • RCタイプの天蓋は、蓋の横ずれや亀裂・破損等を簡易計測する。
周辺地盤の目視点検
  • 斜面変動による変状の有無に注視した目視観察をする。

各点検の変状レベル評価(a~c)および総合判定(Ⅰ~Ⅳ)については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

写真2 井筒内カメラ調査
写真2 井筒内カメラ調査
写真3 集水ボーリング調査(検尺棒)
写真3 集水ボーリング調査(検尺棒)
写真4 付帯施設点検調査
写真4 付帯施設点検調査

(2) 詳細調査

集水井工の詳細調査は、詳細点検の結果に基づく総合判定の結果により必要と判断された場合に実施を検討する。詳細調査には、井筒詳細調査・集排水管の孔内カメラ調査・モニタリング、水質分析調査などがあり、最終的な集水井工の総合判定を行う。ここでは、井筒詳細調査を紹介する。

1) 目的

井筒詳細調査は、詳細点検により劣化や機能低下が進行していることが明らかとなった施設に対して、変状のある位置や状況をより詳細に調査・点検し、対策方針を決定するために必要な詳細情報を取得することを目的とする。

2) 適用条件

本調査は、ライナープレート製の集水井工の場合に適用する。詳細点検により変状が認められるなど、本調査の必要性が確認されていることが実施条件である。

3)詳細調査手法

①計画・準備・資料収集

②事前調査

③準備作業

④仮設工

⑤井筒内壁面調査

調査結果の整理

図2 井筒詳細調査の手順

井筒詳細調査の手順を、図2に示す。
井筒内壁面調査は、あらかじめ定めた測線を上から深さ1m毎に順次調査し、詳細調査票に記録する。各深度で実施する調査内容は、下記のとおりである。

  • a)打音検査

    井筒壁面を全面的に打診し、異音や低反発の有無を調査。

  • b)部材の残存厚さ測定

    ライナープレート製の排水孔を利用し、部材厚をノギスで測定。

    (写真5)

  • c)下げ振り測定

    下げ振りにて壁面との距離を測定し井筒の変形等を測定。(写真6)

  • d)展開写真撮影

    井筒壁面の写真撮影を行い、井筒壁面のスケッチを行い変状箇所の範囲、種類などを記録する。

    (図3)

図3 集水井展開スケッチ
図3 集水井展開スケッチ
写真5 部材の残存厚さ測定
写真5 部材の残存厚さ測定
写真6 下げ振り測定
写真6 下げ振り測定

4)調査結果の整理と劣化診断

詳細調査の結果は、震度毎に損傷・変状レベルと変質・腐食レベルの2種類について評価を行い、各種計測結果とともに詳細調査票へ記録する。また、井筒壁面の写真は深度毎に全方位をつなぎ合わせて展開写真にして整理する。

表3 井筒の深度毎の変状レベル評価
区分 レベル 変状内容
損傷・変形 1
  • 損傷、変形は認められない。
2
  • 局所的な損傷、変形が生じているが安定性に問題ない。
3
  • せん断等による損傷、変形で損壊や破断に至る。
変質・腐食 1
  • 変質、腐食は認められないが軽微な変質、腐食のみ。
2
  • 顕著な変質、腐食であるが、鋼材の表面膨張や板厚の減少に至っていない。
3
  • 顕著な変質、腐食で鋼材の表面膨張や板厚の減少、明瞭な損壊が認められる。

その他の詳細調査手法については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

3.長寿命化及び機能回復手法の計画設計

集水井工の長寿命化と機能回復については、集水井を構築する工種毎の機能低下の原因を特定した上で手法を検討する。集水井本体と集排水ボーリングの長寿命化および機能回復手法の分類を、表4,5に示す。

表4 集水井本体及び付帯施設の長寿命化と機能回復手法
区分 区分(詳細) 現象 対応
長寿命化 集水井本体及び付帯施設の品質低下
  • 鋼材の腐食
〈事前〉
  • 腐食代を考慮したライナープレートの採用
  • 耐食性ライナープレートの採用
〈事後〉
  • 鋼材の洗浄と耐腐食性再塗装による防食
  • 天蓋の材質変更
  • 耐食性ライナープレートへの交換
機能回復 井筒本体の機能低下
  • 洗掘等による土留壁背面の空隙
  • 井筒背面の空隙の充填処理
  • 異常土圧
  • 鋼材を修復し、支保材、補強材にて内径を確保する支保材・補強材の追加
  • 偏土圧による変形
  • 既設の集水井より内径のライナープレートを巻立て、集水管を引き込み、間隙を栗石等で埋め戻す断面修復工(内巻き工法)
  • 鋼材の腐食
  • ライナープレート等の鋼材の交換
表5 集排水ボーリング工の長寿命化と機能回復手法
区分 区分(詳細) 現象 対応
長寿命化 集水ボーリングの品質低下
  • 集水管の腐食
  • 腐食に強い集水管の採用
  • 抗菌剤を練り込む、またはコーティングした集水管の採用
  • 管の閉塞
  • 大口径の集水管の採用
  • 孔口の目詰り抑制構造の設置
排水ボーリングの品質低下
  • 孔口閉塞
  • サイフォン処理
機能回復 排水機能の喪失
  • 集水井湛水
  • 排水ボーリング工の造設
  • ポンプ等による強制排水
  • 管の閉塞
  • 孔内洗浄工
  • 外圧による破断、破損
  • 集排水ボーリング工の再施工

各手法の適用条件と工法概要については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

《引用文献》

  1. 土木研究所(2011):地すべり防止施設の維持管理に関する実態と施設点検方法の検討-地表水・地下水排除施設-、土木研究所資料第4201号、48p
  2. 農林水産省(2013):地すべり防止施設の機能保全の手引-抑止工編-,2013年6月
  3. 農林水産省(2008):水抜きボーリングの目詰まり原因とその対策-農村地域地すべり対策施設機能維持検討調査の概要-、農林水産省農村振興局企画部資源課資料
  4. 国土交通省(2014):砂防関係施設点検要領(案)、2014年9月
  5. 斜面防災対策技術協会編:斜面対策工維持管理実施要領,2016.12.

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