新技術紹介

アンカー工【点検・詳細調査と劣化診断及び長寿命化・機能回復手法の計画設計】

制作:(株)相愛

1.点検手法及び劣化診断

(1) 劣化及び損傷の原因と特徴

アンカー工は、緊張力を継続的に保持し続ける必要上から、施工後の供用段階における機能維持が重要であることが既存アンカーの点検・調査などで判明してきており、「グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説(地盤工学会,2012)」では維持管理を前提とした工法と位置付けられている。
アンカー工の変状は、地すべり変動や斜面崩壊及びその誘因の豪雨豪雪・地下水位の変化などから成る地質的要因や、防食材の劣化・流出・不足、防食不良などから成る材料的要因を原因として、過大な緊張力の作用、受圧構造物の変位、テンドンの腐食、アンカー体の引抜き抵抗力の低下、アンカー頭部材料の損傷などが生じる(表1)。
これによって、テンドンの破断・引抜けなどが発生し、受圧構造物・斜面などの変状・崩壊、アンカー頭部の飛び出し・落下などの重大な機能低下へと進展していく。

表1 代表的な劣化・損傷の事例 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)

施設区分 状況と特徴 写真
テンドン
  • 斜面変動や地震などによって緊張力が過緊張状態となり、テンドンが破断した場合は、飛び出しや引抜けが発生する。
  • アンカー頭部の損傷・変形を伴い、受圧構造物や周辺地盤の損傷・変形へと進行する場合がある。
  • 旧タイプアンカーは、引張り部とアンカー体の境界部の止水性が低下すると、水の侵入によって腐食が進行し、飛び出しや引抜けに至る場合が多い。

※旧タイプアンカーとは、1988年11月制定土質工学会基準「グラウンドアンカー設計・施工基準」(JSF:D1-88)以降の学会基準に準拠していない構造のアンカーをいう。

定着具
  • くさび定着方式では、腐食や異物が混入するとくさび機能が低下し、テンドンが引き込まれて残存引張り力が低下する。
  • 過緊張の場合にも、テンドンの引き込まれによって、くさび定着が外れることがある。
頭部キャップ・コンクリート
  • テンドンの飛び出しや落石・衝突荷重などによって、亀裂や剥離・浮きなどが発生し、落下に至る場合もある。
  • 寸法が小さく受圧板前面に設置されることから、乾燥収縮や水の侵入・凍上などによって、発錆や遊離石灰・表面の材質劣化が発生し易い。
受圧構造物
  • 斜面変動や緊張力変化などによって、受圧板自体の安定が損なわれる場合がある。
  • 変質や腐食が進行すると、発錆や遊離石灰、表面の材質劣化が生じ易い。

(2) 旧タイプアンカーの判定方法

旧タイプアンカーについては、鋼棒タイプ・鋼より線タイプともにテンドンの腐食による破断事例が顕在化していることから、点検においてはその判定が重要である。判定方法の概要を表2に示す。

表2 旧タイプアンカーの判定方法 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)

区分 概要
アンカー構造

設計・施工年次
  • 1988年11月制定の土質工学会(現 地盤工学会)基準で二重防食が義務付けられたが、実務における運用は1990年2月の「土質工学会基準-グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説」発刊以降と見受けられることから、これ以前に設計・施工されたアンカーは、旧タイプである可能性が高い。
  • 1990年以降の施工でも、設計は1990年以前に完了済の場合もあることから、1992~1993年頃までに施工されたアンカーには旧タイプが含まれている可能性がある。
工法名
  • アンカー工法の多くが、公的機関において技術審査証明を取得しており、耐久性について審査されていることから、技術審査証明取得以降に設計・施工されているアンカーは、旧タイプの可能性は低いと考えられる。
外観
  • 頭部がコンクリート被覆されたアンカーは、旧タイプである場合が多い。
  • 初期のアンカーでは、頭部が無保護のままで余長部分を錆止め塗装程度としている構造も存在する。

(3) 点検手法

点検は、原則として対象斜面に配置された全アンカー群の点検を行うが、優先順位については重要度や緊張力の他に受圧構造物の種類・形状及び打設地点の地盤特性などを考慮して決定する必要がある(表3)。

表3 アンカー工の点検種別と概要 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)

点検種別 概要 時期・頻度 備考
初期点検
  • 施工図面に基づき、1群のアンカー工の出来形配置や損傷などの状態と周辺地盤の状況について確認する。
  • 今後行われる点検の比較基準とする。
  • 施工後、維持管理開始前
  • 目視点検(全数)
  • 簡易計測(全数)
  • 本数が多い場合20%かつ10本以上。
  • 施設台帳が未整備の場合は、頭部外観調査を併せて実施する。
日常点検
  • 斜面対策施設全体の巡視の中で、目視可能な範囲について、全体的な外観と周辺地盤の異常の有無を確認する。
  • 確認が困難な高所や縁片部などの点検は、定期点検に譲る。
  • 通常の巡回時(概ね年に2~6回)
  • 目視点検
    (遠望目視)
    (車上目視)
定期点検
  • アンカー工の点検手法に基づき、個別アンカーの頭部と受圧構造物及び周辺地盤の異常の有無やその程度を把握する。
  • 前回点検と比較して、変状の有無や進行程度を確認する。
  • 竣工後3年まで:年1回
  • 3年以後:概ね3~5年に1回(施設の特性に合わせて適宜設定)
  • 目視点検(全数)
  • 簡易計測(全数)
  • 本数が多い場合は、初期点検に準じる。
  • 近接点検を行い、日常点検より細部に着目する。
異常時点検
  • 異常気象発生時に、目視可能な範囲で施設及び周辺地盤の新たな変状の発生や既往変状の進行の有無を確認する。
  • 異常発生直後
  • 適時
  • 日常点検に準じる。
  • 定期点検で異常が確認されたアンカー工については、優先的に点検を行う。

(4) 総合判定

点検票の変状レベル評価基準に基づき、1群のアンカー工に対する総合判定を行う(表4)。

表4 アンカー工の総合判定 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)

対応レベル 総合判定 対応
  • 変状レベルc評価が2つ以上の場合。
  • テンドンの飛び出しや破断、引抜けや引き込まれが認められる場合。
  • アンカー頭部の状態や周辺斜面状況より、過緊張が疑われる場合。
  • 周辺地盤の変状レベルがc評価の場合。
  • 第三者への被害の可能性がある場合。

【対策検討】

  • 必要な改修工事や応急対策措置について検討する。
  • 必要に応じて詳細調査を実施する。
  • 変状レベルc評価が1つ以上、またはb評価が2つ以上の場合。
  • 個々のアンカーの異常はすべて変状レベルa評価だが、類似の要因に起因すると推定される軽微な異常が一部範囲に集中している、または一定範囲にわたって発生している場合。
  • 旧タイプアンカーと推定される場合。

【要詳細調査】

  • 必要な詳細調査を実施する。
  • 詳細調査の結果に応じて、改修工事を検討、または点検を継続する。
  • 変状レベル評価bが1つ以上の場合。

【経過観察】

  • 次回定期点検時に異常個所の経過観察を行う。
  • 次回からの定期点検の時期と頻度を検討する。
  • 変状レベルがすべてa評価の場合。
  • 劣化損傷が認められない場合。

【記録保管】

  • 定期点検を継続する。

各構造(アンカー頭部・引張り部・受圧構造物・周辺地盤)の変状レベルの評価基準と点検票については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

2.詳細調査及び劣化診断

(1) 詳細調査手法

近年の調査事例では、頭部外観調査では軽微な変状レベルのアンカーが、リフトオフ試験を行うと残存引張り力が許容範囲を逸脱している場合や、その逆の場合も報告されている。よって、標準的な詳細調査の組み合わせとしては、頭部外観調査からリフトオフ試験までを1つの調査単位として実施することが望ましい(表5・図1)。

表5 詳細調査手法の概要と実施数量の目安 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)

調査手法 概要
頭部外観調査
  • アンカーに近接して、目視や触診及び打音による点検と簡易寸法計測を行う。
  • 各詳細調査に先立って実施する最も基本的かつ必須の調査で、後続調査の必要性を判定する。
  • 調査対象は、1群の配置アンカーの全数とする。
頭部露出調査
  • アンカー頭部の異常の有無を確認し、後続の詳細調査の必要性や実施の可能性を確認するために行う。
  • テンドンの破損や破断などの変状、定着具の腐食状態、緊張力解除の可否判定のためのテンドン余長、引張り材や定着具の腐食状態、背面からの湧水状態、防錆油の漏れ、変質状態などを確認する。
  • 調査対象は、詳細調査が必要なアンカーと周囲(上下左右)のアンカー及び、それを除いた本数の20%かつ5本以上とする。
リフトオフ試験
  • 残存引張り力を測定し、健全性を判定するために行う試験。
  • 荷重-変位量特性から見かけの自由長やテンドンの異常の有無も推定する。
  • 頭部背面調査の必要性と維持性能確認試験や再緊張の実施の適否も判定する。
  • 調査対象は、詳細調査が必要なアンカーと周囲(上下左右)のアンカー及び、それを除いた本数の10%かつ3本以上とする。
頭部背面調査
  • 緊張力を解除し定着具を取り外すことが可能なアンカーについて、テンドンの腐食状態、背面の防錆材の充填状況及び変質の有無、防食構造の止水性や地下水の侵入状況などを目視確認する。
  • 調査対象は、リフトオフ試験を行ったアンカーと周囲(上下左右)のアンカー及び、それを除いた本数の5%かつ3本以上とする。
維持性能確認試験
  • リフトオフ試験または頭部背面調査まで実施したアンカーに対して、適性試験に準拠して行う多サイクルの引張り試験。
  • 斜面変動などの外的要因で残存引張り力が減少した場合などには、テンドンの材料評価を行う必要があり、テンドンが設計アンカー力に対して今後も適用可能か否かを、荷重-変位量曲線などから判定する。

【後続の詳細調査の必要性の判断基準】

図1 アンカー工の詳細調査の手順と後続の詳細調査の関連性 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)

総合判定(Ⅰ~Ⅳ)及び劣化診断基準(a~d)は、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

(2) リフトオフ試験

1) 目的


写真1 リフトオフ試験状況

リフトオフ試験とは、アンカーの残存引張り力を測定する試験であり、維持管理段階の試験として一般的に実施されている。
アンカーの残存引張り力は、地盤のクリープやテンドンのリラクセーションなどの影響により時間経過に伴い少しずつ減少する他、外力の変化や地盤の変位の影響を受けた場合は緊張力が大きく増減することがある。また、アンカーシステムの機能低下が発生した場合にも、緊張力が変化する。
よって、リフトオフ試験を実施して、残存引張り力を把握し荷重-変位特性を評価することにより、1群のアンカー工と対象斜面の機能維持の状況を定量的に確認する。

2) 適用条件


図2 リフトオフ試験装置の例
(地盤工学会,2012)

試験にあたっては、まずテンドンの再緊張余長が、緊張ジャッキをセットするための必要長以上を有しているかを判定する必要がある。一般値として、PC鋼より線の場合は10cm以上、ナットタイプのテンドンの場合はカップラーを連結するネジ代以上の長さが必要である。
再緊張余長が十分でない場合でも、特殊治具により定着具を直接つかむ装置も開発されているため、専門技術者の意見を参考にするとよい。
頭部露出調査の結果、過緊張やアンカー材の損傷の程度によって、リフトオフ試験時に破断や飛出しが発生する危険性が懸念される場合は、専門技術者が慎重に検討した上で、試験を行わない判断を下すこともある。

3) 詳細調査手法及び手順

リフトオフ試験の手順を、図3に示す。

リフトオフ試験による荷重-変位量曲線の例を、図4に示す。

図4 リフトオフ試験結果グラフの例(地盤工学会,2012)


図3 リフトオフ試験の手順

4) 調査結果の整理と劣化診断

①試験結果の整理

  • 荷重-変位量曲線において、載荷時のリフトオフ前の傾きとリフトオフ後の傾きの交点をリフトオフ荷重とする。
  • tanθは変位増加に対する荷重増加の比で、リフトオフ後の傾き(勾配)から求める。

②劣化診断(残存引張り力の評価)

  • 残存引張り力が、定着時緊張力の80%以上かつ設計アンカー力以内の場合は、健全と評価する。
  • 定着時緊張力の50%以上あるいは許容アンカー力以下の場合は、経過観察を行うこととする。
  • 許容アンカー力以上の過緊張あるいは定着時緊張力の50%以下の場合は、対策実施が必要と診断する。

表6 残存引張り力とアンカー健全度の目安 (地盤工学会,2012)(一部加筆修正)

Tys:テンドンの降伏引張り力


図5 アンカー健全度区分図の例(酒井,2010)

その他の詳細調査手法については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

3.長寿命化及び機能回復手法の計画設計

アンカー工の長寿命化及び機能回復手法は、アンカー工による対策の目的とその要求性能に対する健全性の判定を行い、機能評価時の性能レベルから目標とする性能レベルに回復させるために必要な対策を選定するものである。
アンカー工の長寿命化及び機能回復手法の分類を、表7に示す。

表7 長寿命化及び機能回復手法の分類 (斜面対策工維持管理実施要領,2016)(一部加筆修正)

区分 機能低下の状態 劣化損傷の主な現象 対応手法
長寿命化 頭部コンクリートの損傷 亀裂、浮き、剥離、落下
遊離石灰、発錆、錆汁、湧水
表面の材質劣化
  • 頭部コンクリートを撤去し頭部キャップに交換

頭部背面部材の損傷 亀裂、欠損、遊離石灰、浸水
土砂の混入、表面の材質劣化
  • 除荷して部材の補修や交換
機能回復 頭部キャップの損傷 浮き、緩み、割れ、落下、発錆
湧水、表面の材質劣化
  • 防錆処理等の補修や交換
  • 同等の頭部キャップに交換
防錆材の劣化・損傷 漏れ、色相変化、固化・軟化
  • 防錆材の充填や交換
頭部定着部材の損傷 再緊張余長や定着具・支圧板の
発錆・ずれ
  • 防錆処理等の補修や交換
受圧構造物(連続板)の損傷 亀裂、浮き、鉄筋露出、発錆
錆汁、剥離、遊離石灰、湧水
表面の材質劣化
  • 亀裂補修または断面修復
受圧板(独立板)の損傷
(FRP、プラスチック等新素材製を除く)
亀裂、浮き、割れ、鉄筋露出
発錆、錆汁、剥離、遊離石灰
湧水、表面の材質劣化
  • コンクリート部材は亀裂補修または断面修復
  • 鋼製または合成樹脂部材は部分補修、塗装、防錆処理
緊張力の減少
  • アンカーテンドンの損傷
  • テンドンの健全性を確認した上で再緊張
  • アンカー体設置地盤のクリープ
  • 地盤のクリープ性状を把握し供用可能と判定した後に再緊張
  • 受圧構造物の不等沈下、ずれ、落下
  • 除荷と再緊張が可能な場合に受圧構造物の位置を調整または再設置

  • テンドンの破断、飛び出し、引抜け、引き込まれ
  • 飛び出し防止対策(鋼製キャップや鋼板、鋼製ネットにより防護)
  • 抜き取り閉塞または存置
  • 再施工、増し打ち
  • その他の工法を併用

緊張力の増加
  • 想定以上の外力が作用し緊張力が増加
  • 受圧構造物や斜面安定度を検討し、可能な場合に緊張力を緩和
  • 増し打ち
  • その他の工法を併用
  • 受圧構造物の変位、目地の開き、ずれ、割れ
  • 背面地盤の補強などの必要性を検討した上で緊張力を緩和
  • その他の工法を併用
テンドンの変状と緊張力の変動
  • テンドンの劣化、破断、飛び出し、引抜け、引き込まれ
  • 地すべり活動等による過緊張
  • テンドン、定着地盤等の劣化による緊張力低下
  • 受圧構造物の損傷
  • 供用可能な既存アンカーの緊張力調整の適否を詳細調査結果より評価して検討
  • 斜面及び構造物の安定度を考慮して検討

各手法の適用条件と工法概要については、「斜面対策工維持管理実施要領」を参照されたい。

《引用文献》

1)
土木研究所,日本アンカー協会共編:グラウンドアンカー維持管理マニュアル,2008.7.
2)
地盤工学会編:グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説,2012.5.
3)
酒井俊典著編:SAAMジャッキを用いた既設アンカーのり面の面的調査マニュアル(案),2010.3.
4)
斜面防災対策技術協会編:斜面対策工維持管理実施要領,2016.12.

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